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孤島に閉じ込められた男二人の狂気...異様な新作映画『ライトハウス』

An Artsy Fever Dream

2021年7月8日(木)17時16分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)

全編に、そんなゆがんだエロティシズムが立ち込めている。男たちの間には抑圧されたエロスが充満し、ウィンズローはベッドの中から小さな人魚像を見つけ、欲情した人魚の夢を繰り返し見る。

灯台で、孤立感と妄想はいや増しに募る。任期は4週間のはずだが、次第に時間の流れが意味を失うところを見ると、もっと長い時間がたっているのかもしれない。

ウェイクとウィンズローは同じ妄想を共有して狂気にからめ捕られ、マッチョな権力争いを繰り広げながら自滅へと落ちてゆく。

コールリッジの「老水夫の歌」に出てくる「百千万のぬるぬるとした生き物」がウィンズローの夢に忍び込み、さらに2人の現実を侵蝕するに至って、男たちの愛憎は水底から暗い魔力を呼び覚ます。

カメラはゆっくりと動いて、時折「よく見ろ」とばかりに被写体をどぎつく映し出す。それでも正方形に近いトーキー時代のアスペクト比を採用して、35ミリの白黒フィルムで撮影された映像は、この上なく美しい(撮影監督は『ウィッチ』のジェアリン・ブラシュケ)。

耳をつんざく霧笛とマーク・コーベンによるインダストリアルな響きの音楽とカモメの鳴き声がミックスしたサウンドが、不安をあおる。カナダ・ノバスコシア州の海岸に建設された灯台は古い絵本の挿絵のようで、これぞ映画美術のかがみだ。

役者2人の演技は本当に見事

好意的に見れば、全体の仕上がりは「没入型」。しかしあまりにグロテスクな後半は、「絶え間なく不快」と言うほかない。

肉体的にもセリフ回しの面でも過酷な役柄に、パティンソンとデフォーは全身全霊で挑んだ。とりわけデフォーは多様なイメージをはらんだ長ゼリフを自然体で口にし、暴言にすごみと哀愁だけでなく荒々しいユーモアまでにじませて見事だ。

『ライトハウス』が最も冴えるのは、サミュエル・ベケットの戯曲に見られるようなわい雑でダークな笑いがはじける場面。所構わず屁をひるウェイクの癖をめぐり、2人は何度も衝突する。

だが神話のモチーフはひたすら増え、禁断の回転灯は一向に意味の分からない象徴的な光を放ち続けて、映画はやがて作り手の意図しないところで笑いを誘う。狂った灯台守たちが最後の対決で血だらけになる頃、監督の職人芸に対する尊敬の念はストーリーを雰囲気でごまかすことへのいら立ちに変わっている。

序盤でウェイクは、「退屈は人を悪に染める」とウィンズローに警告する。退屈がそこまで観客の魂をむしばむことはないにせよ、孤島に足止めを食らった2人の気持ちはよく分かる。私も一刻も早く、映画館から逃げ出したかった。

THE LIGHTHOUSE
『ライトハウス』
監督・脚本/ロバート・エガース
主演/ウィレム・デフォー、ロバート・パティンソン
日本公開は7月9日

©2021 The Slate Group

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