不平等、性暴力、金銭問題...韓国映画界の「膿を出し」栄光を支える組織の存在
POWER TO THE DIRECTORS
性暴力防止の取り組みについて、DGKの中でも最初は消極的な意見が多かった。「警察でもないのに捜査するわけにもいかない」「仲間である監督を裁けるのか」などの声が上がった。性暴力防止委員会に参加していた男性監督たちも「キツイ」と弱音を吐き始め途方に暮れた。そんななか、事件が続いた。
世界的な#MeTooの流れも影響
台本にも打ち合わせにもない性暴力を撮影中の演技で俳優チョ・ドクチェが強行したと共演者が告発。泥沼裁判の過程で被害者の俳優はDGKの性暴力防止委員会を頼った。18年、チョは最高裁で有罪になった。また、DGK組合員である映画監督イ・ヒョンジュに性暴力を受けたと同僚の映画監督が告発し、同じく18年に最高裁で有罪が確定した。DGKでは加害者である監督を除名処分する厳しい決断を下した。
「裁判で勝っても被害者は時間を失い、心身を病み、情熱を注いできた映画から離れることが多い。業界が防止に取り組まなければ、解決方法が訴訟だけになる。その間どれほどの犠牲が出るか。映画人の意識を変えるガイドラインを設ける必要があった」とイ監督は振り返る。
世界的な#MeTooの流れにも刺激を受け、被害者の立場に立たなければ性被害問題は解決しないという認識が定着し始めるなか、18年に韓国映画性平等センター「ドゥンドゥン」が生まれた。ドゥンドゥンは、KOFIC(韓国映画振興委員会)から助成を受ける全ての制作チームに対し、撮影に入る前にスタッフを一堂に集め、性暴力防止の講義を行うことを決め実行している。
それだけでは足りないと、DGK性暴力防止委員会は監督たちへの性暴力防止教育を始めた。DGK定期総会は、専門家を講師に迎えた性暴力防止レクチャーから始まる。
イ・ユンジョン監督は性暴力防止のガイドライン作成にも取り組んだ。米プロデューサー組合(PGA)のガイドラインと、米演劇団体シカゴスタンダードが#MeToo問題を研究した資料を参考に、19年に発表した「中支申(チュンジシン)」(中止・支持・申告 ストップ! サポート! レポート!)だ。
ストップとは周囲にいる人々もやめさせようという呼び掛けであり、サポートとは被害者側に立てというスタンスであり、レポートとは管理監督義務がある制作会社や映画団体に申告できるシステムをつくろうということだ。韓国ではまだ「申告」の部分が弱いとイ監督は指摘する。
「性暴力事件が起き申告したとき、誰が解決のためのコントロールタワーになるかがはっきりしない。KOFICに申告センターが設置され、防止対策に生かされるべき。相談に行っても『裁判で頑張ってね』になると、被害者は時間と労力と裁判費用を考え訴えなくなる。事件は埋もれ『悪しき現場の文化』がはびこっていく。プロデューサーと制作会社、業界を管理監督する団体が逃げ腰にならず対応すべきだろう。それでこそ監督たちは作品に集中できる」