最新記事

韓国映画

不平等、性暴力、金銭問題...韓国映画界の「膿を出し」栄光を支える組織の存在

POWER TO THE DIRECTORS

2021年5月6日(木)18時04分
ヤン ヨンヒ(映画監督)

DGKは今、著作権者としての法的地位や団体交渉について猛烈に学んでいる。海外の著作権管理団体と交渉し、国内の法整備のため国会にも足を運ぶ。組合としての在り方はDGAを参考にし、著作権問題解決の方法としてフランスのシステムを適用させたいという。徹底的なリサーチからロールモデルを定め、研究し、自国の現状に応用するための具体案を作り出す。この膨大な作業を現役の監督たちが請け負っている。

自分の時間をシナリオ執筆や制作に投じたいはずの監督たちが、無報酬でなぜそこまでできるのか。「犠牲を覚悟で後輩たちのために頑張っているが、業界全体の底上げになれば自分の利益にもつながる。他の団体と違って無報酬で実務を請け負うのは、金銭が絡んで組織が腐っていくケースを見てきたから。組合のために奉仕するという契約書にサインし理事会の役職に就くが、映画制作期間に突入する監督は映画に集中させる」と、ミン監督の答えは明瞭だ。

組合員はband アプリ(フェイスブックのような機能)をスマホにダウンロードし、新作、受賞、トラブル、作品公募などさまざまな情報を共有し意見を交わす。組合員の両親の訃報まで届くのには驚いた。

法的問題解決のため専属弁護士に無料相談でき、撮影現場には監督の顔写真横断幕が付いた「応援車」のケータリングサービスが届き、ディレクターカードでシネコン映画を無料鑑賞、10万円ほどの人間ドックの受診ができる。これらのサポートは組合員が支払う2000円の月会費と演出料の1%の納付、理事会が集めた企業からの賛同金で賄われている。

210504_11p36car_KEC_05.jpg

DGKがミン・ギュドン監督(右)の現場に送った応援車 COURTESY DGK

性暴力防止の取り組みも

近年の制作現場における重要な動きが、性暴力防止の取り組みだ。

16年、韓国のツイッターで「#XX界_内_性暴力」というハッシュタグが立った。映画界、出版界、文学界、美術界などにおける性暴力被害が次々と告発され、韓国での#MeToo運動の始まりになった。すさまじい量の告発はどの事例も具体的で信憑性があり、特に映画界からの告発内容はおぞましかった。

210504_11P36metoo_KEC_08.jpg

映画界も#MeToo運動の渦中へ KIM HONG-JIーREUTERS

各業界がフィードバックを迫られたなか、DGKは「映画界の性暴力に対して反省し、防止のために努力する」という声明を出した。ピョン・ヨンジュ監督、パク・ヒョンジン監督と共にDGK内の性暴力防止委員会を発足させたのが、現DGK副代表のイ・ユンジョン監督(『私を忘れないで』)だ。「監督デビューを果たした頃にハッシュタグ運動が起こった。被害者のツイートを読みながら、多くの告発者が業界を去ったことを知りショックだった。弱い立場のスタッフの悩みを忘れていた自分に愕然とし、声明を出すくらいでは何も変わらないと危機感さえ覚えた」と、彼女は言う。

スクリプターだった下積み時代、業界に蔓延したハラスメントや性暴力に悩んでいたことを思い出した。全ての監督は自分が権力者であることに自覚的であらねば、とイ監督は強調する。「演出部の下っ端として長年耐えてきた私は、立場の弱いスタッフにとっての映画制作現場の残酷さを知り尽くしていた。私の出番だと思った」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中