不平等、性暴力、金銭問題...韓国映画界の「膿を出し」栄光を支える組織の存在
POWER TO THE DIRECTORS
DGKは今、著作権者としての法的地位や団体交渉について猛烈に学んでいる。海外の著作権管理団体と交渉し、国内の法整備のため国会にも足を運ぶ。組合としての在り方はDGAを参考にし、著作権問題解決の方法としてフランスのシステムを適用させたいという。徹底的なリサーチからロールモデルを定め、研究し、自国の現状に応用するための具体案を作り出す。この膨大な作業を現役の監督たちが請け負っている。
自分の時間をシナリオ執筆や制作に投じたいはずの監督たちが、無報酬でなぜそこまでできるのか。「犠牲を覚悟で後輩たちのために頑張っているが、業界全体の底上げになれば自分の利益にもつながる。他の団体と違って無報酬で実務を請け負うのは、金銭が絡んで組織が腐っていくケースを見てきたから。組合のために奉仕するという契約書にサインし理事会の役職に就くが、映画制作期間に突入する監督は映画に集中させる」と、ミン監督の答えは明瞭だ。
組合員はband アプリ(フェイスブックのような機能)をスマホにダウンロードし、新作、受賞、トラブル、作品公募などさまざまな情報を共有し意見を交わす。組合員の両親の訃報まで届くのには驚いた。
法的問題解決のため専属弁護士に無料相談でき、撮影現場には監督の顔写真横断幕が付いた「応援車」のケータリングサービスが届き、ディレクターカードでシネコン映画を無料鑑賞、10万円ほどの人間ドックの受診ができる。これらのサポートは組合員が支払う2000円の月会費と演出料の1%の納付、理事会が集めた企業からの賛同金で賄われている。
性暴力防止の取り組みも
近年の制作現場における重要な動きが、性暴力防止の取り組みだ。
16年、韓国のツイッターで「#XX界_内_性暴力」というハッシュタグが立った。映画界、出版界、文学界、美術界などにおける性暴力被害が次々と告発され、韓国での#MeToo運動の始まりになった。すさまじい量の告発はどの事例も具体的で信憑性があり、特に映画界からの告発内容はおぞましかった。
各業界がフィードバックを迫られたなか、DGKは「映画界の性暴力に対して反省し、防止のために努力する」という声明を出した。ピョン・ヨンジュ監督、パク・ヒョンジン監督と共にDGK内の性暴力防止委員会を発足させたのが、現DGK副代表のイ・ユンジョン監督(『私を忘れないで』)だ。「監督デビューを果たした頃にハッシュタグ運動が起こった。被害者のツイートを読みながら、多くの告発者が業界を去ったことを知りショックだった。弱い立場のスタッフの悩みを忘れていた自分に愕然とし、声明を出すくらいでは何も変わらないと危機感さえ覚えた」と、彼女は言う。
スクリプターだった下積み時代、業界に蔓延したハラスメントや性暴力に悩んでいたことを思い出した。全ての監督は自分が権力者であることに自覚的であらねば、とイ監督は強調する。「演出部の下っ端として長年耐えてきた私は、立場の弱いスタッフにとっての映画制作現場の残酷さを知り尽くしていた。私の出番だと思った」