社名変更でスベったフォルクスワーゲンに読ませたいジョーク本
目立つのは「中国人ジョーク」の増加
本書の構成は「コロナ禍における不思議な日本人」に始まり、中国やアメリカ、韓国、北朝鮮との関係を下敷きにしたジョークへと続く。ほかにも日本の働き方や高齢社会、治安の良さ、東京オリンピック、カルロス・ゴーンや「こんまり」まで登場する。
過去の「ジョーク集」と比べ、目立つのは「中国人ジョーク」の増加だ。それだけ世界における中国の存在感がここ数年――良くも悪くも――高まったのだと言える。
日本人が言った。
「なんでもかんでも否定から入るのは良くないよ」
中国人が答えた。
「いや、そんなことはない」
国民性や民族性をネタにしたジョークは「エスニックジョーク」と呼ばれる。世界中で人気のあるジョークの種類の1つだ。差別ではなく、ユーモアとして楽しむものだが、時に線引きが難しい。
とはいえ、国民性だけでなく、宗教やセックスなどを題材にした他のジョークにも一定の難しさはある。ジョークを愛した作家、開高健も「ジョークはTPOをわきまえてやらなきゃいけない」と言っていた。
ユーモアや笑いは大切だが、無神経ではいけないということだ。
その意味で、TPOをわきまえ損ねたのがフォルクスワーゲンだったのかもしれない。
EV化という時代の潮流を反映しており、企業イメージとしても悪くない。「Volkswagen」を「Voltswagen」に変えるなんて、洒落ているじゃないか。面白い。やろう。
たぶん、そんな会話が社内の会議で交わされたのだろう。
だが報道によれば、エイプリルフールに先立つ3月29日、「誤って」社名変更のプレスリリースが掲載された。翌30日、プレスリリースは各メディアに送付され、同社のツイッター公式アカウントも社名変更を投稿した。いずれにも「エイプリルフール」という記載はなかった。
その後になって、フォルクスワーゲンは「社名変更はない」「エイプリルフールのつもりだった」と釈明したのである。
だが同社は2015年の排ガス不正問題という、ジョークどころか「笑えない嘘」からの信頼回復の途上にあった。そのため「ボルツワーゲン」ネタは、スベるどころか、企業の信頼性すら傷つけかねない結果となった――というのが、この騒動のオチ。
ドタバタでジョークを台無しにした関係者には、ぜひ「ジョーク集」を読んで勉強してもらいたい。
『世界の日本人ジョーク集 令和編』
早坂 隆 著
中公新書ラクレ
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