アメリカ極右が愛するダークヒーローとは? 勝手なイメージ利用に不快感
The Punisher Goes Rogue
SEALs(米海軍特殊部隊)の隊員だったクリス・カイルは回顧録『アメリカン・スナイパー』の中でこう語っている。「彼(パニッシャー)は悪を正し、悪者を殺した。悪事を行う者たちを震え上がらせた。われわれの存在意義もまさにそれだった。だから私たちは、彼のシンボルであるどくろを自分たちのシンボルとして取り入れた」
コンウェイは、兵士たちがパニッシャーに引かれるのはある程度理解できると語る。パニッシャー自身、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を抱える元軍人だ。
それでも昨年夏、BLM(ブラック・ライブズ・マター=黒人の命は大事)のデモが行われた際に警察官の一部がどくろを自分たちのシンボルとして使い始めたのを見たときには、ひどく当惑した。「ブルー・ライブス・マター(警官の命は大事)」運動の支持者らが考案した黒と白と青の星条旗のデザインが、どくろと一緒にバッジやステッカーに使われていたのだ。
イメージの「独走」は続く
「警察がたとえ非公式であっても、このキャラクターを使うというのは、私から見れば全く不適切であるばかりか、ショッキングでもあった」とコンウェイは言う。
そこでコンウェイは有色人種のアーティストたちにどくろマークTシャツをデザインしてもらい、作品を販売する活動を始めた。Tシャツの売り上げ(コンウェイによれば既に7万ドルを超えている)は全て、BLM運動に寄付されている。
「ソーシャルメディアのおかげで思想や考えと視覚的イメージが結び付きやすくなるとともに、パッケージ化された記号として流通しやすくなった」と語るのは、バージニア工科大学のジャネット・アバテ教授だ。その結果、イメージは「もともと持っていた意味から離れていく」と言う。
オルト・ライト(白人至上主義の極右勢力)に詳しいアラバマ大学のジョージ・ホーリー准教授(政治学)によれば、「あからさまな人種差別主義者の右翼」に比べ、自由意思論者(リバタリアン)や民兵組織「スリー・パーセンターズ(3%ers)」のような「少しだけ一般社会寄りの右翼」は、パニッシャーのような大衆文化の視覚イメージを借用する傾向が強いという。
パニッシャーのどくろのマークに対しては、さまざまな人々がそれぞれ異なる意味合いを付与してきた。そして今後も、この手の大衆文化の視覚イメージの流用や意味の付け替えがやむ気配はない。
ニューヨーク大学のフロマーは「こうした事例はこれからも増えていくだろう」と言う。ネットを介してイメージや情報が拡散するミーム文化の中でわれわれは生きているからだ。「こうしたイメージの勝手な利用は今後も、一般社会でも過激派集団でも同程度に続いていくと思う」