コロナ禍におけるアイドルの握手会の変化
この段階において、ファンにとって握手会と言うイベントは、アイドルと1人のファンが対面をする場から、他のファンと競う場へと変化している。その過程で、ファン同士で自身が如何にアイドルから認知されているか他のファンに対してマウンティングをしたり、また同じアイドルが好きなファンに対して敵意を持ったり(同担拒否1)、新参者やライトファンに対して圧力をかけたり(他者排他2)するのである。そして、アイドルと握手をするという言わば自己満足のためであった消費は、アイドルの時間を独占、アイドルからの認知、他のファンからアイドルを独占、といった顕示的性格を帯びた消費の性質へと変化していくのである。
オンラインミート&グリートと握手会の違い
オンラインミート&グリートでは、前述した通り自身のスマホやタブレット端末からアクセスし、アイドルとスクリーン越しに会話をすることができる。これにより、今までは、ファンがアイドルのいる場所まで足を運ぶ必要があったが、スマホ等の端末を通じてどこからでも会うことが可能になった。これにより、握手会とは異なったファン層がイベントに参加するようになったと筆者は考えている。
まず、握手というアイドルに触れることができるという点に価値を見出してきたファン層は、オンラインミート&グリートという企画に対して価値を見出すことは困難である。「Zoom飲み会」などを思い出すとわかりやすいが、当初は、目新しさからそのような機会でも「人々の会いたいという欲求」を充足するには充分であった。しかし、第一回緊急事態宣言の解除以降は「Zoom飲み疲れ」といった言葉を耳にする頻度も増えるなど、昨今では「Zoom飲み会」を積極的に行う人は減少しているのではないだろうか。この理由は明白であり、飲み会をすることは、「対面」で行うことに多くの人々が価値を見出しているからである。従って、対面という行為を他のモノで代替できないファンがいても不思議なことではないのである。
同様に、他のファンに対して握手時間の長さによる優位性を示していた層においても、オンラインの会場には自分自身しかいないため、従来の顕示的欲求を満たすことができなくなった。彼らにとっては他人に見せつけることで自身の独占欲求が満たされてきたが、オンライン・イベントでは仕組み上、優越感を得ることができなくなり、イベント参加自体のモチベーションが低下してしまうのである。このような理由から、オンラインミート&グリートの参加を望まないファンもいるのである。
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1 オタク・ファン(ポップカルチャー愛好者)の中の応援の仕方の一つ。」応援している人・モノが自分と同じである他のファンに対してあまり絡みたくない対象であるということを伝える言い回しのこと。
2 他のファンに対して敵意を表わし、ファンをやめさせようとする、もしくは気持ちよくファン活動をさせないようにすること。