コロナ禍におけるアイドルの握手会の変化
一方で、地理的に会場までの距離が遠いファンや、身体的な事由により会場へ足を運ぶのが不可能なファン、若年層で保護者の付き添いが必要であったファンなど、さまざまな理由で参加を躊躇するファンもいた3。彼らにとっては自宅にいながらアイドルに会えると言う事が、オンラインミート&グリートに参加したくなる動機になっている。また、新参者にとっても握手会場にいる他のオタクたちの熱量や圧力を感じる必要がないことは、心理的なハードルの低さにもつながり、いままで握手会に参加していなかったファン層が参加しやすい仕組みともいえるのかもしれない4。
今後はアイドルとの交流方法も変わってくると思われる。2014年5月に起きた「AKB48握手会傷害事件」以後、握手会会場の警備は強化され、握手時に荷物の持ち込みが不可能になったイベントも多い。そのため、首から名前を書いたホワイトボードを下げたり、名札を付けると言った方法でしかアイドルに視覚的に訴えることができなくなっていた。しかし、オンラインで自宅から交流できるようになったことで、アイドルに対して新たな方法でアピールをすることが可能となった。部屋の内装をそのアイドルグッズで装飾したり、ペットやそのアイドルが好きなキャラクターグッズを見せて会話の糸口にするなど、自宅からの参加だからこそできる交流方法が生まれているのである。これは、コロナ禍で握手会の代替とされたオンラインミート&グリートを如何に活用するかファンが試行錯誤している結果でもある。
握手会においてはファンである自身、アイドル、他のファンという三者が「握手をするという行為」を顕示的消費の性質へ変化させていたが、オンラインミート&グリートは他のファンを考慮しない自身とアイドルの一対一であった従来の握手会の性質へと回帰していると言えるのかもしれない。
さいごに
全国各地で徐々に緊急事態宣言が解除され、また一般のワクチン接種対応準備が少しずつ整い始めるなど明るい兆しが見え始めている一方で、感染者数のリバウンドが懸念されており、コロナウイルスの感染状況は予断を許さない。今後、エンターテインメントも少しずつライブ配信から観客動員型のイベントへとシフトしていくとは思われるが、ソーシャルディスタンスの必要性があるうちは、握手会のような接触型のイベントの開催はまだまだ難しいだろう。エンターテインメント供給サイドは、如何にしてファンたちのロイヤリティを維持させるかという点がアフター・コロナにおける戦略の焦点だと思われる。
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3 握手会が混雑すると会場外で何時間もの間待機することもある。炎天下の真夏や雪が降る真冬においても例外なく、外での待機を強いられてしまう。脱水症状により救急車で搬送されるケースもあり、体力的な理由で参加が困難なケースもある。
4 握手会会場で仲のいいファン同士がチームのように屯し情報交換をし合ったり、古参ファンが昔のグッズなどを身につけてファン歴の長さをアピールしているという事に対して、新参者は劣等感を覚え、参加することのハードルになることもある。
[執筆者]
廣瀨 涼
ニッセイ基礎研究所
生活研究部 研究員
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