コロナ禍におけるアイドルの握手会の変化
一方で、握手会の代替策として「オンラインミート&グリート」を試みているアーティストもいる。オンラインミート&グリートとは、スマホやタブレット端末を用いてアーティストと個別に数秒会話することができるイベントのことである。一般的には、購入するCDにこのイベント参加権が付与されていることが多く、1枚購入ごとに3~15秒アイドルとの会話が可能となっている。ファンにとってはスクリーン越しではあるが、アイドルと一対一で交流することができるため、コロナ禍においてファンとアイドルをつなぐ唯一の接点として機能している。
ファンにとっての「握手会」の意味
前述した通り、握手会は対面で行われ、ファンにとっては手の届かないとされていたアイドルに直に触れることができるイベントである。ファンは握手をしている数秒間はそのアイドルを独占することができ、ファンの独占欲求が消費を促している。独占欲求とは、他のファンたちから自身のこだわりの対象を独占したいと思う心理のことである。もともとコンテンツ市場は、その多くが日用品と異なり贅沢品に性質が似ている。生産数に限りがあり、供給数が少ないほど希少性を持つ価値のあるモノとなり、ファンにとっては高級ブランド品同様に社会的に見せびらかしたくなるものとなる。そのため、ファンは限られた供給品を奪い合っているのである。有形物(グッズなど)は、所有することを通じて独占することが可能であるが、アイドルの場合は恋人にならない限り独占することはできない。そこで彼女(または彼)達の時間の一部を独占し、2人だけで過ごす時間を共有することで欲求が満たされるのである。
ファンにとって、当初は握手をすること自体が目的であるが、その後徐々に、そのアイドルに数多くのファンの中から自分自身を認識してもらうことに努めるようになる。この時既にファンは、握手をするという行為だけでは自身の欲求は満たせなくなっており、アイドルから認知されること(承認欲求)が握手をする動機へと変化し、欲求が多段階化していく。そこで数多くのファン達の中から自身をアイドルに認識してもらうために、ファンは主に以下のような行動をとる。
(1) 握手権を大量に入手し、アイドルとの対面時間を長くする
(2) 特徴的な服装で対面したり、名札をつけるなどして自身を印象付けようとする
(3) ニックネームをアイドルからつけてもらうなど、印象的な会話を努める