ジョン・レノンが暗殺の直前に語った家族と反戦とビートルズ【没後40周年特集より】
――新曲のうち、「アイム・ルージング・ユー」には以前のような毒があるが......。
ジョン あれは押しつぶされそうな喪失感から生まれた。ある夜、ヨーコに全然電話が通じなかったことがあって、完全に断絶した気持ちになった。なぜこの5年が必要だったのかというと、それは自分を取り戻すためだったと思う。自分が何者かを思い出したのは香港にいたときだ。
僕はヨーコに勧められて、一人になるために世界中を回っていた。20歳のときから何一つ自分ではしていなかったから、ホテルのチェックインの仕方も知らなかった。これを読んだら、「このポップスター野郎!」って思われるだろうね。彼らは、取るに足らない人間の気持ちなんて分からない。
僕は気を落ち着かせたいときは風呂に入るんだが、香港では40回も風呂に入った。そして、ぼんやり海を眺めていて気付いたんだ。このくつろいでいる男こそ、ずっと昔から本当の「僕」だったんだ、と。「彼」は物事をどう進めたらいいのか知っている。称賛やレコードの売り上げに依存する必要はない。ワオ! そしてヨーコに電話して言ったんだ。「誰だと思う? 僕だよ!」
夜明けに香港の街をほっつき歩いた。一人でね。とてもスリリングだった。おばさんたちと一緒にスコットランドの山を歩いていた幼い頃に持っていた感情を再発見していたんだ。木々や霧......。僕は思ったよ、アハ!ってね。この感情こそが書いたり描かせたりするものだと。それは僕の人生にずっとあったものだ。
こうして僕はビートルズから自由になれた。ずいぶん遠回りしたけれど、僕はビートルズ以前もジョン・レノンだったし、ビートルズ以後もジョン・レノンであり続ける。それでいいんだ。
【本誌米国版1980年9月29日号掲載記事を再録】
12月15日号(12月8日発売)は「ジョンのレガシー」特集。悲劇の死から40年。「20世紀のアイコン」が残した音楽・言葉・思想。[独自]暗殺直前インタビュー収録