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言語学

うつは外国語で治る? 言語は性格を変える

2020年10月13日(火)17時30分
平野卿子(ドイツ語翻訳家)



うつのユニークな療法「外国語のトリック」

先日刊行された『落ち込みやすいあなたへ――「うつ」も「燃え尽き症候群」も自分で断ち切れる』(CCCメディアハウス、筆者訳)には、うつと燃え尽き症候群の多岐にわたる原因と、それに対応した薬に頼らない治療法が具体的に述べられている。そのなかに「外国語のトリック」というユニークな療法がある。

「わたしたちは誰でも母語以外の言語でくよくよするのは得意ではありません」(228ページ)と指摘するのは、本書の著者であるドイツ人臨床心理士のクラウス・ベルンハルト。

ネガティブ思考が原因でうつになった人たちに外国語で考えてみるように指導したところ、症状が軽くなったというのを読んで、なるほどと思った。

母語とは違い、外国語は距離があるために客観的になりやすい。したがって、自分のことを「他人事」のように考える思考回路が作動するのだろう。

たとえ外国語を話せなくても、方言でも同じような効果があるので試してみるようにと著者は勧めている。そういえば、地方から出てきた人が郷里の出身者と方言で話すときは、標準語(共通語)で話すときとは気持ちの持ち方が違うという話をよく耳にする。

村上春樹は東京の大学に入学したときに関西弁から標準語に変えたという。そして、「これは非常に大きな変化だった。関西に住み続けていたら、小説を書くことはなかっただろう」と、2014年のエディンバラ国際ブックフェスティバルでの会見で述べている(このあたりの心境について、村上は「イエスタデイ」、『女のいない男たち』文春文庫所収)の主人公「僕」に語らせている)。

標準語に変えたことが、かの村上春樹を生んだ! 言語とはわたしたちにかくも大きな影響を及ぼすものなのである。

[筆者]
平野卿子
翻訳家。お茶の水女子大学卒業後、ドイツ・テュービンゲン大学留学。訳書に『敏感すぎるあなたへ――緊張、不安、パニックは自分で断ち切れる』『落ち込みやすいあなたへ――「うつ」も「燃え尽き症候群」も自分で断ち切れる』(ともにCCCメディアハウス)、『ネオナチの少女』(筑摩書房)、『キャプテン・ブルーベアの13と1/2の人生』(河出書房新社、2006年レッシング・ドイツ連邦共和国翻訳賞受賞)など多数。著書に『肌断食――スキンケア、やめました』(河出書房新社)がある。

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