最新記事

映画

『オフィシャル・シークレット』イラク戦争直前に米英の嘘をリークした元諜報機関員が語る「真実」

A Timely Whistleblower Story

2020年8月28日(金)17時30分
サミュエル・スペンサー

NICK WALL (c) OFFICIAL SECRETS HOLDINGS, LLC

<少々異なる点もあるが、「残念ながらかなり近い」と当の記者が語る『オフィシャル・シークレット』。告発の行方は>

アメリカの現職大統領が自分の政治的利益のために他国の政府に圧力をかけたとされ、弾劾裁判が行われた今にふさわしい映画かもしれない。

舞台は2003年。イラク戦争開戦の直前に、イギリスの諜報機関である政府通信本部(GCHQ)で通訳として働いていたキャサリン・ガン(キーラ・ナイトレイ)が、機密情報をマスコミにリークした。

それは、イラク侵攻に有利な国連安保理決議を引き出すために、米国家安全保障局(NSA)がGCHQに対し、違法な工作活動を要請するメールだった。英オブザーバー紙は記者のマーティン・ブライト(マット・スミス)を中心に、1面でこのスクープを報じた。

GCHQ内で情報漏洩の調査が始まり、同僚たちが厳しい取り調べを受けたため、ガンは自分が内部告発者だと名乗り出た。彼女は逮捕され、公務機密保護法違反で起訴された。

彼女の弁護士ベン・エマーソン(レイフ・ファインズ)は政府に対し、法務長官がイラク戦争を合法とした見解について法廷で追及すると迫った。裁判は開廷したものの、起訴は突然、取り下げられた。

『オフィシャル・シークレット』は基本的に事実をなぞっているが、実話を基にした他の映画と同様、いくつか脚色がある。事実と創作を区別するためにも、ガンとブライト本人、そしてギャビン・フッド監督に話を聞いた。

フェイクニュース攻撃

【以下、ネタバレあり】

「言うまでもなく、1年に及んだ出来事を2時間に圧縮している。そのためにインパクトのある場面をいくつか選んだ」と、フッドは語る。

映画の中でガンが経験する出来事の多くは、実際よりも時間を圧縮して描かれている。例えば、ガンがトルコ出身の夫を移民収容施設から連れ出そうと奔走するシーンは、現実には3日間、夫がどこにいるのか分からなかった。

「強制送還のような攻撃は、後々まで私のストレスレベルを跳ね上げた」と、ガンは言う。ただし、自分がメールを印刷したメモが新聞の1面に掲載されたときに感じた不安とは、比べものにならない。「あのメモは、私の人生にとって最大のストレスだった」

ガンと実際に話をして、映画の最後に登場する当時の映像を見ると、ナイトレイが彼女の外見や話し方をまねしていないことは明らかだ。

「髪をブロンドにするか、眼鏡を掛けるか、特殊メークを使うか検討した」と、フッドは振り返る。「でも、あるときキーラが言ったんだ......今回は飾らない、メークも流行のおしゃれもないキーラ・ナイトレイで臨みたい。私のデスクにあのメールが届いたら、私はどう思うだろうか......と」

【関連記事】イラク戦争はどうアメリカを弱らせたか
【関連記事】戦争映画『ハート・ロッカー』の幻想

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ首都に今年最大規模の攻撃、8人死亡・70

ビジネス

日本国債の残高9年ぶり圧縮、低利回り債入れ替えポー

ビジネス

独IFO業況指数、4月は86.9 予想外の上昇

ビジネス

ノルウェー政府系ファンド、第1四半期は400億ドル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 6
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 7
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「iPhone利用者」の割合が高い国…
  • 10
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中