NEWS・加藤シゲアキが愛する『ライ麦畑』と希望をもらった『火花』
最後の一冊は車谷長吉さんの『赤目四十八瀧心中未遂』で、これも数年前に読んで今も好きなもの。すごく「臭い」小説で、直木賞になって映画化もされた。お金がなくなって、安アパートに住みホルモンを串に刺すような生活をしている主人公と近隣の人たちの話で、そこに現れるのがやくざだったり、かなり個性が強くて本当に「匂い立つ」ような人たちばかり。
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たばこから香水から、ホルモンから汗から......と、本当にこんなに臭い小説はないだろうっていうくらいだが、そこがまさに作家の表現手腕でとても面白いし、流れていく物語からも目が離せない。私小説なので描かれているのは、むちゃくちゃとまでは言わなくても、車谷さんの激動の人生。『火花』とも通じるが、彼にしか書けない経験と視点です。
読み終わった後ですぐ読み返し、ずっと心に残っている。展開自体はややドラマチックになっていくんですよ、ロマンチックっていうくらいに。でも、それも最後にはすとんと消えてしまう。
どこに行くのか分からない物に乗っているような人生、臭いことが悪いわけじゃなく、この「匂い」の中での心地よさがある......そんな見たことのない世界を疑似体験できる、小説の醍醐味が凝縮されている。小説の面白さって本当にいろいろあるなって、この本を読んで改めて思った。
(構成・大橋希)
<2020年8月11日/18日号「人生を変えた55冊」特集より>
2020年8月11日/18日号(8月4日発売)は「人生を変えた55冊」特集。「自粛」の夏休みは読書のチャンス。SFから古典、ビジネス書まで、11人が価値観を揺さぶられた5冊を紹介する。加藤シゲアキ/劉慈欣/ROLAND/エディー・ジョーンズ/壇蜜/ウスビ・サコ/中満泉ほか