最新記事

映画

韓国映画界、コロナ禍の苦境を救うのはゾンビ? 早くも動員150万人のヒットに

2020年7月10日(金)18時00分
ウォリックあずみ(映画配給コーディネイター)

当初は鳴かず飛ばずだったゾンビもの

韓国初めての商業用ゾンビ映画は1980年の『괴시』だ。しかしこの映画、内容は1974年製作スペインのゾンビ映画『Non si deve profanare il sonno dei morti(英題:Let Sleeping Corpses Lie))をコピーしたのではないかと論争にもなった。

その後、ゾンビはしばらくの間、韓国商業映画に現れることはなかったが、2006年『죽음의 숲(英題:Dark Forest)』というオムニバス映画の4つ目のエピソード『ある日突然』にゾンビが登場する。これは、サム・ライミ監督の名作『死霊のはらわた』のような典型的アメリカン・スプラッター系ゾンビ映画だった。

その翌年には、映画『GP506』が公開される。これは韓国軍の基地でゾンビが発生し、その謎に迫るという内容だが、予告編・ポスター共にゾンビよりもミステリー要素のみ協調し公開された。同年、映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』のチャン・フン監督が作った短編映画『The Villains』が第11回富川ファンタスティック映画祭で短編特別賞を受賞する。これは、2006年のワールドカップ日韓共同開催の応援で集まった人たちからゾンビ感染が始まるというストーリーだ。

2010年には、韓国にゾンビウィルスが蔓延した世界を6話で描いたオムニバスコメディー映画『隣のゾンビ』、2012年には、『人類滅亡計画書(第一話:素晴らしい新世界)』と『ホラー・ストーリーズ(第四話:救急車)』の2本のオムニバス映画でゾンビを扱ったエピシードが公開されている。さらに、2014年には韓国映画史上初のザ・ハイティーン・ゾンビ映画と銘打った『ゾンビスクール』が公開されたが興行的には失敗。

パニック映画として売り出した『新感染 ファイナル・エクスプレス』

そして、2016年7月20日『新感染 ファイナル・エクスプレス』が満を持して公開される。ブロックバスター級のゾンビ映画としては韓国映画史上初の試みであった。それ故、宣伝も慎重にならざるを得ず、予告編やポスターには逃げ惑う人びとを中心に構成され、ゾンビ映画というよりも、パニック映画の要素を前面に押し出している。結果的にそれが功を奏してか、ゾンビ映画では驚異的といえる観客動員1000万人を突破した。

『新感染 ファイナル・エクスプレス』の公開から約1カ月後の8月17日、同じヨン・サンホ監督が前日談として作ったアニメーション『ソウル・ステーション/パンデミック』が公開された。

さらにその2年後、2018年には貧乏家族がゾンビを使って商売を始めたことから巻き起こる騒動を描いたコメディー映画『感染家族』と、時代劇×ゾンビという設定の『王宮の夜鬼』が公開される。時代劇系Kゾンビといえば、Netflixで世界的ヒットしたドラマ『キングダム(2019)』が思い浮かぶが、その1年前にすでに映画では登場していた。

そして今年『#生きている(英題:#ALIVE)』と、『新感染〜』から4年後の世界を描いた『半島』が公開される。

このように、これまでの韓国映画におけるゾンビの流れを見ていると、突然ゾンビ映画がヒットしたのではなく、実は2010年から2年おきにゾンビ作品が公開されてきたことがわかる。「ゾンビとSFは当たらない」というジンクスにもめげず、韓国映画界がコンスタントに製作を続けたことが後のビックヒットに繋がったのかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、一段の利下げ必要 ペースは緩やかに=シカゴ

ワールド

ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 売春疑惑で適性に

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中