最新記事

日本

不仲だった兄を亡くした。突然の病死だった──複雑な感情を整理していく5日間

2020年4月1日(水)15時10分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

塩釜署の山下さんによると、兄はその日、多賀城市内のアパートの一室で死亡し、私の甥にあたる小学生の息子によって発見された。十五時頃、甥が学校から帰宅したときには異常がなかったが、ランドセルを置いて友達の家に遊びに出かけ、再び帰宅した十七時、寝室の畳の上で倒れていた。即死に近い状態だったという。

死亡時の年齢、五十四歳。

「息子さんが救急車を呼び、息子さんから連絡を受けた担任の先生が、警察が到着するまで息子さんと一緒にいてくださったという状況です。ご遺体は現在、隣の塩釜市にある、ここ塩釜署に安置されています。というのも、多賀城市には警察署がありませんので......。

それから、病院以外の場所でお亡くなりになりましたので、事件性の有無を捜査しなければならず、検案(※病院以外で発生した原因不明の死亡ケースで、監察医が死亡を確認し、死因や死亡時刻などを総合的に判断すること)が行われました。死因は脳出血の疑いです。お薬手帳を確認しましたが、持病がいくつかおありだったようですね。糖尿、心臓、高血圧の薬を飲んでいらっしゃいました。

それで......遠方にお住まいで大変だとは思いますが、ご遺体を引き取りに塩釜署にお越し頂きたいのです。あの、メモはございますか?」

そう言うと山下さんは、次々と電話番号を私に伝えはじめた。

兄が住んでいたアパートの大家さん、不動産管理会社、甥が通っていた小学校、そして甥の実母で、兄の前妻の加奈子ちゃん......。

呆然としてしまった。関西から東北に移動するのに、いったいどれぐらいの時間がかかるというのだろう。塩釜と突然言われても、イメージがまったく湧いてこない。

え、塩釜って、たしか宮城県でしょ? この人いま、釜石って言ってた?

そのうえ、週末には二日連続で大阪の書店でのトークイベントが控えていた。翌日早朝に自宅のある滋賀県から塩釜市に向かったとしても、二日後の金曜日には戻ってこなければならない。

塩釜市で遺体を引き取り、火葬し、隣の多賀城市にあるアパートを引き払うなんて大仕事が、たった二日でできるはずもない。

混乱しながらも、必死に訴えた。

「実は今週末に大事な仕事がありまして、すぐには行けないのです」と言いながら、実の兄が死んだというのに仕事で行けないっていうのも変な話だよなと思った。しかし同時に、もう死んでしまっているのに今から急いでもどうにもならないと考えた。

塩釜署の山下さんは、「突然のお話ですから当然だとは思います。それで、いちばん早くてどれぐらいで塩釜までお越し頂けます?」と答えた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏消費者信頼感指数、11月はマイナス13.7

ワールド

ロシアのミサイル「ICBMでない」と西側当局者、情

ワールド

トルコ中銀、主要金利50%に据え置き 12月の利下

ワールド

レバノン、停戦案修正を要求 イスラエルの即時撤退と
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中