最新記事

映画

韓国ネットの闇に晒された女優チョン・ユミと映画『82年生まれ、キム・ジヨン』

2019年11月27日(水)20時10分
ウォリックあずみ(映画配給コーディネーター)

映画化発表と同時に非難殺到

小説が大ヒットすれば、映像業界が放っておかないのは万国共通だ。この『82年生まれ、キム・ジヨン』も賛否両論が続くなか、映画化が発表された。それと同時に注目されたのは主人公のキム・ジヨン役を誰が演じるかという点だった。

昨年9月17日、タイトルロールをチョン・ユミが演じると発表されたとたん、彼女はネット上で誹謗中傷のコメント攻撃のターゲットとなってしまった。チョン・ユミは自身のSNSアカウントに映画出演を非難する書き込みが1日で3000件も投稿された。さらに、以前出演していたバラエティ番組のプロデューサー、ナ・ヨンソクとの不倫疑惑というデマがネット上に流され、二人の名前はポータルサイトの検索キーワード1・2位に並ぶ炎上騒ぎになった。根も葉もない噂を流された彼女だが、そこで泣き寝入りせず所属事務所を通じて悪質な書き込みをした相手を告訴した。

ポータルサイトでの「評点テロ」

newsweek_20191127_195952.jpg

現在のNAVER映画での『82年生まれ、キム・ジヨン』の評点

この映画に対するネット上での攻撃は、出演者だけでなく映画自体にも及んだ。10月公開だったにもかかわらず、韓国最大ポータルサイトであるNAVERや、映画レビューサイトのワッチャなど主要映画サイトでは最低点の評価を付ける「評点テロ」と呼ばれる行為が行われた。これは、ネット上で呼びかけて、レビューサイトで最低点を付け、一気にその映画の評判を下げて興行成績を落とす行為である。

特に影響力が強いと言われているNAVERの映画レビューでは、『82年生まれ、キム・ジヨン』がまだ公開もされていなかった9月の時点で、すでに多くの人が点数を付け、映画公開時には10点満点中3.7点という低い評価からのスタートとなってしまった。しかし、公開後は、アンチに対抗する人々と公平に評価した人たちによって9.20点(11月27日現在)と高評価を保っている。

韓国人は日本人よりも口コミに左右されやすい国民性だ。映画の評価も、レビューや点数など日本よりも気に掛けることが多い。以前、映画製作会社に勤めていた頃は、自社制作の新作が封切りになると、マーケティング会社がネイバーのアカウントを買って高得点や良いレビューを書いて操作していたこともあった。さすがにこの手法は今は廃止されたが、それでも芸能ニュースを見ていると「新作映画〇百万人突破!」などの記事が多い。そのため、評点テロは一度ターゲットにされると打撃は大きい。

ここ最近で評点テロを受けた映画を見てみよう。『82年生まれ、キム・ジヨン』以外にすぐに頭に浮かぶのは、今年7月に公開されたハングル文字誕生の秘密を描いた映画『ナランマルサミ(The King's Letters)』だ。この映画はハングル文字が成立する過程で仏教による影響があったと描いたが、一部の人々から「歴史歪曲だ」として評点テロが行われ、興行的にも打撃を受けた。また、5月に公開された『ガールコップス(Miss & Mrs. Cops)』は、作品内に登場する男性キャラクターがあまりにもひどい描き方をされていると、一部男性観客から反感を買い評点テロに繋がった。

その他、朝鮮王朝などの歴史物や反日問題などに関連した内容、更には出演者・スタッフの言動などから炎上し、評点テロに繋がることが多いようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中