韓国ネットの闇に晒された女優チョン・ユミと映画『82年生まれ、キム・ジヨン』
「この映画を作りたい、共有したいという気持ちの方が勝り、ネットの批判は気にならなかった」と語る女優チョン・ユミ YTN/YouTube
<ネット上で理不尽な誹謗中傷を受けるのはソルリやク・ハラのようなアイドルだけではない>
今、韓国で有名人らがレビューや写真をSNSにアップすると、批判と応援、両方のコメントで炎上してしまう小説がある。それが『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ著)だ。本国では2016年10月に刊行され、その後100万部を超えるベストセラーに。日本でも2018年12月に翻訳出版され韓国文学としては異例の14万部ものヒットとなっている。
しかし、この本は有名人が紹介するとたちまち炎上する。例えば、女優ソ・ジヘがインスタグラムにこの本の写真をアップしたところ、コメント欄は誹謗中傷の悪質な書き込みだらけとなり、投稿を削除する事態となった。これに対し、女優キム・オクビンが応援コメントを書き込んだが、炎上は彼女にまで飛び火した。
こうしたアンチ派からの攻撃はSNS上だけには留まらず、ガールズアイドルグループ「レッド・ベルベット」のアイリーンは、ファンミーティングのMC中、最近読んだ本として『82年生まれ、キム・ジヨン』を紹介したところ、一部過激なファンが「アイリーンのフェミニスト発言に失望した」と、彼女の写真を破り、グッズを火で焼いた写真をネットにアップするといった攻撃を受けた。
今や社会現象ともいえる、この『82年生まれ、キム・ジヨン』だが、そもそもなぜここまで注目を集めたのか?
1982年生まれ、現在30代後半の主人公の名前はキム・ジヨン。この名前はこの世代で一番多い女子の名前だという。物語は、どこにでもいる一般的な韓国女性の淡々と日常を描きながらも、女性が気付かないうちに受けている性差別を浮き彫りにしている。
生きているうちにいつの間にか「自分は女性だから......」と違和感すらもたずに受け入れ、当たり前だったことが、実はまったく正当な理由がない理不尽なことではないかと考えさせられる。このフェミニズム的な内容に、主人公と近い20〜30代の女性から多くの共感の声が上がった。だが、その一方で保守派の男性たちなど一部の人々からはアンチの声も上がるようになり、いつしか両者が対立する構図になってしまった。