「撃たれやすい顔」を検知する「銃」──現代美術家・長谷川愛とは何者か
勉強はまったくしなかった。成績は最悪。私は大学は行かなくていいけど、弟は大学に行くべきだと思っていました。振り返ると本当に馬鹿らしい思い込みだと思いますが......。
将来を考えようにも、周りの女性たちはパートで働くか専業主婦ばかりでした。仕事を楽しむ女性はほとんど会えなかった。中学の頃は楽しい未来が全然想像できなくて、高校に入れなかったら尼になろうと思っていたくらいです。
高校卒業後はプログラミングを学ぼうかと考えていたところ、父が岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー(通称 IAMAS)の情報を教えてくれました。県立で学費も安かったしプログラマーの勉強もできた。だけど私はプログラミングがまったく身につきませんでした。理数科目が苦手だったので、当然といえば当然なのですが。
宗教から科学技術へ
IAMASでは当時、アニメやCG、メディアアートなどの分野で個性的な人材が集っていた。豊かで深い作品に衝撃を受け、自らも作るようになる。
当時神様が困っている人の前に現れるんだけど助けてくれない、というストーリーのアニメやCGを作ってました。宗教信者の親への最大の反抗、のつもりでした。
在学中、転機が訪れました。同じマンションの同じ階に住んでいた友だちが21歳でガンで亡くなったのです。彼の葬式に参列し気づいたのは、私には死を優しくケアしてくれる「ファンタジー」はもうないことでした。実家から出て親の信じる宗教から離れることができた。だけど同時に、悲しみや絶望を癒やす宗教の「ファンタジー」も失ったのです。気づかぬうちに宗教は私の心の拠り所になっていたのだと、この時改めて思いました。
宗教という「ファンタジー」を手放した私にとって、替わりとなった拠り所が科学技術でした。友人の死を受けて、アニメーション作品を作りました。人体は粒子でできていて、亡くなった後は燃やされてパーティクル(粒子)に戻る。それをヒントに、自分とそれ以外を隔てる境界線はなく、亡くなった友人も、ずっとこの世界に偏在しているのだ、という思いを作品に込めました。
今までの作品に、生と死といったテーマに科学技術を組み合わせた作品が多いのは、この時の体験が大きく影響していると思います。
人と人はわかり合えない。ならばオスザメを魅惑する
その後、イギリス人アーティストと恋に落ち、彼と一緒にロンドンに渡る。一切英語が喋れないにもかかわらず。
最初は英語が全然わからず、話せずで。辞書を片手に鉛筆と紙で筆談でコミュニケーションを取っていました。言葉の壁は気持ちで乗り越えられると思っていましたが、結局彼とは別れてしまいました。
言葉を尽くしても、五感や行動で示しても、人と人がわかり合うのは難しい。むしろ言葉があることで理解し合えるということが「幻想」なら、どうせわかり合えないのなら、もはや相手は人間でなくてもいいのではないか? ならば、一番人間から遠い未知の生物とつながってみたい。その思考から生まれのが、サメを魅惑する香水制作の可能性を探るリサーチプロジェクト"Human X Shark"です。