タランティーノ9作目『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のオタク的なこだわり
The Culmination of Tarantino’s Obsessions
ディカプリオ(左)とピット(右)の豪華な共演も話題に
<おぞましい60年代末の時代の空気を、底抜けに明るい映像に詰め込んだが......>
映画を10本撮ったら監督業は引退だというクエンティン・タランティーノの「公約」が本当なら、9作目となる『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』には一生分のこだわりが詰め込まれているはず。そもそもタイトルからして、セルジオ・レオーネ監督の名作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』への熱いオマージュだ。
舞台は1969年のハリウッド。落ち目のテレビ俳優リック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)は、彼の専属スタントマンで付き人のクリフ・ブース(ブラッド・ピット)と一緒に飲んだくれの日々を過ごしているのだが、隣の家には妊娠中の女優シャロン・テート(マーゴット・ロビー)が住んでいて、その夏のうちに惨殺されることになる。
ここまで聞けば、アメリカ人なら思い出す。この映画がカバーしている半年間の最後に、あのむごたらしい事件が現実の世界で起きたことを。
当然、嫌な予感がする。それでも映画のトーンは底抜けに明るい。時代は暴力と、どこへ向かうとも知れない不安に満ちていたはずなのに、主役の2人はのんきなもの。それは悲しいほどの虚無感であり、あの犯行に及んだカルト集団マンソン・ファミリーがまさに告発し、破壊しようとしたものだ。
おぞましい時代の空気と明るい映像のコントラストが、この作品の推進力なのは分かる。それでも筆者にはタランティーノの意図が分からない。なぜ現実に起きた話を、なぜリアリティーに欠ける設定で描かなければならなかったのか。
未来は明るいと信じて疑わないシャロンと、もう下り坂であることを知っているリックとクリフ。その対比は明らかだが、タランティーノはそんなことには無関心で、両方のシーンを機械的に切り替えるのみ。
シャロン役のロビーにも一度は見せ場がある(自分の出演作を上映中の映画館を訪れる場面)。しかし大半は添え物のような役割で、人間らしく描かれるのはもっぱら主役の男2人だ。
女性の生脚は「小道具」
もしかすると、これは「男についての男のための映画」なのだろうか。タランティーノのフェティシズムは映画の随所で女性の細い生脚を映し出す。灼熱の道を急ぐ脚。映画館の客席の背もたれに乗せられた脚。女はほとんど「小道具」扱いだ。ちなみにマンソンとその仲間たちも、ほとんど出番がない。
それが欠陥だとは言うまい。気の利いたジョークがたくさんちりばめられているし、あの時代にふさわしい音楽も使われている。映像の切り取り方も、さすがタランティーノだ。
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