経済失速の韓国で大ヒット『パラサイト』 カンヌは「万引き」の次に「寄生」する格差社会作を選んだ
カンヌ国際映画祭で受賞したパルム・ドールの盾をもって韓国仁川国際空港に帰国したポン・ジュノ監督(左)と主演のソン・ガンホ
<2年連続でアジア作品が最高賞を獲得したカンヌ国際映画祭。そこには日本や韓国に限らず、経済格差が拡大する世界への危機意識がうかがえる>
2018年のカンヌ国際映画祭では、日本の是枝裕和監督の『万引き家族』がパルム・ドール(最高賞)を受賞し、日本国内でも大いに話題になった。そして今年5月26日、第72回カンヌ国際映画祭では、クエンティン・タランティーノ監督の話題作などを押さえて、去年に続きアジアからポン・ジュノ監督の韓国映画『パラサイト』(原題『寄生虫』)がパルム・ドールを獲得した。今年は韓国映画誕生100年という節目の年で、そこに韓国映画初のパルム・ドール受賞とあって、韓国国内ではニュースなどでも大きく伝えられた。
このため、昨年『万引き家族』がパルム・ドールを受賞した日本と同様、韓国国内でこの作品に対する注目は高く、受賞発表から4日後の5月30日に韓国内で公開が始まったが、封切り初日から『X-MEN:ダークフェニックス』『アラジン』といった人気エンタメ映画を抑えて興行ランキング首位に立ち、すでに14日目の時点で751万9960人の動員を突破。韓国での映画大ヒットの基準となる1000万人観客動員も時間の問題と言われている。この人気を受け韓国の3大シネコンチェーンの一つメガボックスでは、英語の字幕付きでの上映を開始した。在韓外国人にも幅広く観覧してほしいという気持ちがうかがえる。
ところで、ポン・ジュノ監督とカンヌ映画祭といえば、2年前の映画『オクジャ』が記憶に新しい。今回同様コンペティション部門に出品された『オクジャ』だったが、Netflixオリジナル製作作品だったこともありフランス国内での劇場公開が正規では行われず、「これは映画ではない」と批判されるなど、古くからの伝統を重んじるカンヌ映画祭で波紋を広げた。そのため上映前には一部観客からブーイングが起こったほどだったという。
この問題は大きく取り上げられ、その後現在まで続く「配信系制作の劇場未公開作品は"映画"と言えるか?」という論争に繋がっていく。さらに、論争はカンヌ映画祭だけに収まらず、映画『オクジャ』は韓国国内上映の際にも三大シネコン会社(CGV/ロッテ/メガボックス)からそれぞれ上映ボイコットを受ける事態へと発展した。理由は、劇場公開と同時に配信を開始したNetflixに対する映画界からの抗議のためだ。このように、前作『オクジャ』は残念なことに作品内容以外の部分で注目を集める形となってしまった。そういった苦い過去を含め、今回のポン・ジュノ監督の新作がパルム・ドールを受賞したことは作品自体が評価された意味のある受賞となった。
さて、受賞作の映画『パラサイト』はどういった作品なのだろう。韓国国内用、海外用ともに、ポスターにはある家族の姿が映っているが、顔には目に線が入っていて少し不気味な印象だ。ジャンルは、ブラックコメディーという意見もあれば、現代版のホラーだとも評価されている。