最新記事

映画

『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』人類史を書き換える世界の創造

Godzilla’s World

2019年5月30日(木)18時00分
アンドルー・ウェーレン

『キング・オブ・モンスターズ』が描くのは、バランスを崩した自然の姿だ。そこに秩序を取り戻すべく、あるいは混乱に付け込もうと古い神々がよみがえる。怪獣は荒れ狂う自然の象徴であり、本作での破壊のありさまは天災規模に達している。「巨大な嵐や地震が発生するが、それらはどれも怪獣が生み出している混乱の一部だ」

magmovie190530_godzilla2.jpg

チャンブリスはオリジナルには登場しない怪獣も造形した MICHAEL BUCKNER/GETTY IMAGES

モスラは「本質的に自然と結び付いた怪獣」で「比喩的にも視覚的にも光を導く」と、チャンブリスは語る。一方、キングギドラは「ほかの怪獣も含めて、あらゆるものとあらゆる人を配下に置こう」とし、「破壊と支配のためにやって来る」。

ゴジラの造形はリブート版シリーズ第1作『GODZILLA ゴジラ』(14年)を継承した。かつて自分を崇拝した人間のためにバランスを取り戻そうと、暴れ回る役どころだ。

本作は、都市のように巨大で複雑に絡み合う生物群そのものを構築するばかりでなく、人類と怪獣の間の長く入り組んだ歴史にも踏み込んでいる。

ゴジラという怪獣はデザインの変遷をたどってきた。原点である54年の映画『ゴジラ』で、故・中島春雄(『キング・オブ・モンスターズ』の撮影現場には中島のサイン入りの写真が掲げられていた)が「着ぐるみ」で演じた姿から、『シン・ゴジラ』(16年)の形態を変え続けるゴジラへ――。だがこれまで、その過去や生息地がはっきりと描かれたことは一度もない。

本作には、ゴジラのすみかとして築かれた古代都市が登場する。そこにはゴジラをあがめ、世話をし、ゴジラに従う人々が暮らしていたが、神話的な災害によって都市は消失した。

自然と人類の歴史を書き換える離れ業によって、本作は来年公開予定の続編『ゴジラvsキングコング』の舞台をしっかり整えた。とはいえ、人類はもはや脇役だと思い込むのはまだ早い。巨大なロボット「メカゴジラ」で、人類が怪獣の脅威に立ち向かう筋書きも検討されている。

それでも『キング・オブ・モンスターズ』では、豪華俳優陣が演じる人間のキャラクターは必死に生き残ろうとしているだけという印象が強い。

「焦点はほとんど怪獣同士の戦いに当てている」と、チャンブリスは語る。「人間は物語の重要な位置を占めていないとも言える。彼らにできるのは(怪獣の戦いを)見守り、人類絶滅を避けようとすることだけだ」

<本誌2019年06月04日号掲載>

20190604cover-200.jpg
※6月4日号(5月28日発売)は「百田尚樹現象」特集。「モンスター」はなぜ愛され、なぜ憎まれるのか。『永遠の0』『海賊とよばれた男』『殉愛』『日本国紀』――。ツイッターで炎上を繰り返す「右派の星」であるベストセラー作家の素顔に、ノンフィクションライターの石戸 諭が迫る。百田尚樹・見城 徹(幻冬舎社長)両氏の独占インタビューも。


20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

サハリン2はエネルギー安保上重要、供給確保支障ない

ワールド

シンガポールGDP、第3四半期は前年比5.4%増に

ビジネス

伊藤忠、西松建設の筆頭株主に 株式買い増しで

ビジネス

英消費者信頼感、11月は3カ月ぶり高水準 消費意欲
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中