『ビューティフル・ボーイ』薬物依存症の青年と父の苦闘の物語
Boy Interrupted
そんな複雑な事情を、この作品はきちんと伝えている。例えば、治療施設から息子が逃げたとデービッドのもとに連絡が入る場面。パニックになるデービッドに医者が「回復過程では再発はつきもの」と言って聞かせる。ニックは何度も薬の誘惑に負け、デービッドはそのたびに「再発はつきもの」と自分に言い聞かせ希望を失うまいとした。「家族の理解を得るまでがひと苦労」だと、依存症専門医のスコット・ビネンフェルドは話す。「依存症は病気であり、簡単に治せるようなものではない」
なかでもメタンフェタミンは「最も依存性が強い薬物だ」という。「脳に放出されるドーパミンの量が圧倒的に多い」
明暗を分けるのは運だけ
薬物にのめり込むにつれて、ニックの人格が崩壊していくさまを、映画はリアルに描く。聡明で優しい青年だったニックは挙動不審になり、自己破壊的な行動を繰り返すようになる。
依存症患者は薬物を手に入れるためなら「嘘をついたり盗んだり何でもするが、だからと言って悪人ではない」と、ビネンフェルドはクギを刺す。
依存症も癌や糖尿病のような病気だと、デービッドが理解するには時間がかかった。それが分かってからは、息子を管理したり罰するのはやめたという。
高額の費用がかかる治療施設にニックを入れても、一進一退の状況が続いた。突破口になったのは、依存症の根底にある精神疾患が見つかったことだ。そのときニックは27歳。診断名は双極性障害と鬱病だった。
「息子は病気の苦痛を和らげるために自己治療として薬物に頼っていた」と、デービッドは言う。診断がついたおかげで、ニックは精神疾患の治療を受けられるようになった。
薬を断って8年余り。ニックはいま結婚してロサンゼルスに住み、テレビドラマの脚本家として活躍している。
「奇跡と言うしかない」と、デービッドは感慨深げだ。ただ、薬物で命を失った多くの若者たちのことを思うと胸が痛むという。「なぜ私の息子が立ち直り、多くの親たちがわが子を失うのかと聞かれたら、運だとしか言いようがない。運がよかった。ただ、それだけだ」
<本誌2019年04月16日号掲載>
※4月23日号(4月16日発売)は「世界を変えるブロックチェーン起業」特集。難民用デジタルID、分散型送電網、物流管理、医療情報シェア......「分散型台帳」というテクノロジーを使い、世界を救おうとする各国の社会起業家たち。本誌が世界の専門家と選んだ「ブロックチェーン大賞」(Blockchain Impact Awards 2019)受賞の新興企業7社も誌面で紹介する。
2025年1月21日号(1月15日発売)は「トランプ新政権ガイド」特集。1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響を読む
※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら