最新記事

BOOKS

JKビジネスを天国と呼ぶ「売春」女子高生たちの生の声

2018年12月12日(水)11時35分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<地道な取材力で引き出された、「エンコーする」女子高生たちの本音。彼女たちは「被害者」ではなかったと『裏オプ』の著者は記す>

以前、『売春島――「最後の桃源郷」渡鹿野島ルポ』(高木瑞穂著、彩図社)という書籍を紹介したことがある。「売春島」と呼ばれる三重県の渡鹿野島について、その歴史から売春産業の成り立ち、隆盛、衰退までのプロセスを解き明かしたノンフィクションだ。

【参考記事】「売春島」三重県にあった日本最後の「桃源郷」はいま......

そこで初めて知ることになった渡鹿野島の真実もさることながら、同書について印象的だったのは、著者の地道で緻密な取材力だった。足で調べてこつこつとファクトを積み上げていく手法が見事で、ノンフィクション取材の機会は多くない自分にも、見習うべき点が多くあると感じたのだ。

だから同書を読んで以来、この著者が次にどのような本を出すのかがずっと気になっていた。それが今回紹介する『裏オプ――JKビジネスを天国と呼ぶ"女子高生"12人の生告白』(高木瑞穂著、大洋図書)である。

今回のテーマは「裏オプ」。この言葉は知らなかったのだが、著者によればそれは「裏オプション」の略語だ。リフレ店などのJKビジネス(女子高生が個室で簡易マッサージを行うサービス、「リフレ」はリフレクソロジーの略)にはメニュー表があり、添い寝やハグといったオプションが用意されているが、裏オプは文字どおり、メニュー表にはない「裏のプレイ」。多くの場合、本番などの性行為を意味するのだという。

その原点は、リフレ店のオプションサービスとして2012年ごろに登場した「JK散歩」と呼ばれる店外デートだ。私服でのデートに応じる店も多く、傍目には"仕事中"とはわからないため、警察や周囲の目を気にすることなくラブホテルに行くことができたというわけだ。

ただし2014年にJKリフレから18歳未満が締め出されてからは、摘発逃れのために業態が細分化。ハグや添い寝など少女との接触行為が規制の網にかかると、需要の高いアンダー(18歳未満の少女)を使って荒稼ぎを目論むオーナーが、散歩だけを独立させた店を次々と誕生させたのだ。

そうなれば、表向きは接触プレイがなかったとしても、裏側で本番などの性サービスが横行するようになるのは当然の成り行きだった。いつ摘発されてもおかしくない状況下、短期間で荒稼ぎしようと、客が払うプレイ代はまるまる店の取り分とし、女の子には「エンコーして稼げ」とするシステムを採用する店が増加したというのである。

この場合、経営者にとっては「買春客を紹介してやっている」という身勝手な理屈が通ることになる。もちろんそれも問題なのだが、さらに深刻なのは少女たちの感じ方かもしれない。彼女たちの中には、「うちらアンダーを雇ってくれる」と甘んじて受け入れた側面があったというのである。


「エンコー目的のコは基本、リフレじゃなくお散歩で働いていました。だって誰にもバレずに裏オプして稼げるから。私たちはもう、散歩店で働く=裏オプが当たり前の世代。裏オプばかりの店で、ひとりだけ拒んでいたら全くお客さんはつかないし、稼げないし。エンコーとお散歩って似てる。外で会って、コース料金以外の裏オプ代はすべて自分のものになるから。エンコー目的のウチらにとってお散歩は、客をマッチングしてくれる出会い系サイトみたいなものでした。歩合なので日によるけど、多い日で五〜六万円。週二〜三日しか出勤してなかったこともあったけど毎月、確実に二〇万以上にはなった。
 最高は六〇万です。なかには一〇〇万以上稼いでいるコもいた。洋服代、カラオケ代、化粧品代、ネイル代......稼いだお金はぜんぶ使っちゃいました。稼ぎたい。でもキャバや風俗で働ける年齢じゃない。それで見つけたのがJKビジネスだった。ちょっとでも割のいいバイトとなると......リフレしかなく、特に何の抵抗もなく働き出して。裏オプを覚え、今度はお散歩で本番するようになって。やましいことしてるって感覚がなかったから、私も友達に紹介したりして。カラダを売ることには抵抗があったけど、まあ、ちょっと我慢すればお金が貰えたから」(散歩店で働いていた現役女子高生)(「プロローグ」より)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:中国輸出企業、ドル保有拡大などでリスク軽

ワールド

中国、日本などをビザ免除対象に追加 11月30日か

ワールド

政府、総合経済対策を閣議決定 事業規模39兆円

ビジネス

英小売売上高、10月は前月比-0.7% 予算案発表
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中