人殺しの息子と呼ばれた「彼」は、自分から発信することを選んだ
「それ(自分の発言など)に対しては何を言われてもいいんです。たぶん、良くない意見というか、心に刺さるような意見も出てくると思うんですけど。俺に興味をもってくれてるから、そういう意見も出てくると思うんですよね。何もなかったら何も出ないじゃないですか。だから、人の意見で落ち込んだりすることもないように、これからは逃げずに、いまの自分を知ってもらおうかと。ここまでできるようになったよっていうのを見せたいなって思ったんです。今回の件に関して、ネットに何か書かれたり、世間の人からなんて言われても、なんとも思わないです。これまでは俺の知らないところで勝手にそういうことをされていて、それに付随して野次が飛んでくるような感じだったので、耐えられなかったんです。今回は自分から発言をしているんで。中途半端な気持ちでこういうふうに話もしてないですから」(164ページより)
彼はこうして、現在も地に足を着いて暮らしている。無期懲役の判決が下った母親、そして死刑判決が下された父親にも何度か面会に行っている。かといって関係が修復できたわけではないし、父親に至っては反省の色を見せず、(死刑執行までの時間稼ぎをするために)「署名を集めてくれ」と言われたりもした。
放送終了後に会いに行ったときには言い合いにもなったが、「俺はあなたのあやつり人形じゃない」とはっきり伝えた。その結果、謝ることのなかった父から手紙が届き、そこには"一応の父より"と書かれていた。
だからといって彼は父親を許せたわけではないだろうし、これからも本当の意味で許すことはできないのかもしれない。母親に対しても同じだ。しかし、それはともかくとしても、今後も彼はきちんと自分の人生を生きていくことだろう。「もう一度読みたい」という思いに駆られて彼の発言を何度も読み直した結果、そのことを強く実感した。
[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。新刊『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)をはじめ、ベストセラーとなった『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。
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