衝撃の話題作『サウルの息子』のネメシュ・ラースロー監督に聞く
独特のカメラワークに引き込まれ、観客はアウシュビッツの極限状態を目の当たりにする
狂気の任務 サウルを演じるルーリグ・ゲーザの緊張感に満ちた表情も素晴らしい ©2015 Laokoon Filmgroup
ナチス・ドイツのホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を描いた映画はいくつもあるが、これまで感じたことがないほどの強烈な印象を残すのが『サウルの息子』だ(日本公開中)。ハンガリー出身のネメシュ・ラースロー監督(38)の長編デビュー作であり、昨年のカンヌ国際映画祭でいきなりグランプリを獲得、2月に授賞式が行われる米アカデミー賞でも外国語映画賞にノミネートされている(おそらく獲得するだろう)。
舞台は44年10月のアウシュビッツ・ビルケナウ・ナチスドイツ強制・絶滅収容所。ハンガリー系ユダヤ人のサウルはここで、「ゾンダーコマンド」として働いている。ゾンダーコマンドとはナチスに選別され、同胞のユダヤ人の処理(ガス室への誘導から遺体の焼却、灰の処分まで)に当たる特殊部隊。おぞましい任務に就いている彼らも、いつかは殺される運命だ。サウルはある日、遺体処理の最中にガス室で息子とおぼしき少年を発見する。そしてユダヤ教の教義にのっとり埋葬しようとするところから、物語が回り始める――。
自身の祖父母もガス室に送られ、そのことに「幼少期からオブセッションに囚われるぐらい深く執着していた」というラースロー監督に話を聞いた。
――作品が生まれたきっかけは。なぜゾンダーコマンドについて映画化しようと?
ホロコースト60周年だった10年前に、初めてゾンダーコマンドの存在を知った。当時出版された彼らの手記を読み、これは非常に重要なテーマだから絶対に映像にしないといけないと思った。
――あなたの親族も収容所で亡くなっている。それはあなたにどんな影響を与えていると思うか。
すごく答えが難しい質問だ。例えば日本人や、日本の子供たちは原爆についてどう思うのかと聞くのと、同じことだと思うから。基本的には、世界でもヨーロッパでも第二次大戦について語られる場、教えられる場がまだまだ足りないし、もっと教育していかなくてはならないと感じている。社会として、そういう問題をオープンに語っていかなければならないと思う。
――これから世代交代が進むにつれ、戦争の歴史はますます忘れられていく心配があるのでは。
もちろんそういう方向に向かっていくのは仕方ないことだ。でも、それに抗うのは悪いことではないし、自然なことだと思う。忘れてしまうことに抵抗する人たちがいてもいいんじゃないか。
――この映画が独特なのは、カメラがひたすらサウルの表情を追い掛けるところだ。脚本の段階から考えていた?
あのカメラワークを大前提に脚本を書いた。狙いは単純で、恐怖をどれだけ肌で感じることができるか、どれだけリアルに伝えることができるかだ。