素人「追悼文」の名作が読みたい!
一般人をしのぶ死亡記事や故人の別れのメッセージがブームに
葬儀社サイトも 追悼文サイトに月間2400万件もアクセスがくる「魅力」とは Erik Dreyer-The Image Bank/GETTY IMAGES(COMPUTER), FCAFOTODIGITAL/iStockphoto(SCREEN INSET)
普通の主婦だった高齢女性が死んでも、近所の人や親族にしか訃報は伝わらない──そんな常識はもう通用しないようだ。
例えば先月に104歳で亡くなったドロシー・マッケルハニー。本人が書いた別れの言葉がバージニア州の地元紙の公式サイトに掲載されると、ほろりとする文章だと評判を呼び、フェイスブックやツイッターを通じて一気に広まった。
「あなたがこれを読むときには、私はもうこの世に存在しません」──そんな言葉で始まるメッセージには、少女時代の思い出がつづられ、ちょっとした人生訓も添えられている。「自分の気持ちに正直に、素晴らしい人生を送ってね。ああ、それから、いつも笑顔を忘れずに」
かつては無名の人が亡くなっても、せいぜい遺族が地元紙に短い死亡広告を出すだけだった。今では地方紙や葬儀社のサイトなど、故人からのメッセージや長文の追悼文を公開できる場がいくらでもある。民間の追悼サイト「レガシー・ドット・コム」は月間2400万件のアクセスを誇り、「笑える追悼文」コーナーまである。おかげで素人ライターが腕を振るって死亡記事を書くようになった。
昨年11月に35歳で亡くなったアーロン・パーモットは妻と共に書いた別れの言葉で、自分をスパイダーマンに例えた。「私は放射能を浴びたクモにかまれ......われわれの社会を脅かす癌という名の凶悪犯と1年に及ぶバトルを繰り広げた」
このようにユーモアも交え、当事者の率直な思いをつづり、ささやかな人生訓を織り交ぜたメッセージは、見ず知らずの他人までしんみりとさせる。
もっとも、人気を呼ぶのは遊び心あふれる文章だけではない。7月にメーン州の地方紙サイトに投稿されたコリーン・シンガーの追悼文には、執筆者の怒りが込められている。記事には、薬物依存症のため32歳で亡くなったシンガーは「自分自身と(州知事の)政治、社会全体の精神疾患に対する無知と無関心、愚かしい薬物依存対策の犠牲者だ」と書かれている。
執筆者は深い哀悼を表す一方で、死者をむち打つこともいとわない。「コリーンはとても慈悲深く、自分よりも不運な人には惜しみなく手を差し伸べた。その一方で、彼女は詐欺師、泥棒、嘘つきでもあった」
投稿時には匿名だったが、その後シンガーの元夫が執筆者として名乗り出た。いい面も含め、彼女の複雑な実像を伝えたかったと、彼は言う。「彼女のことをただのヤク中と思ってほしくなかった」
死亡記事で彼が怒りをぶつけた相手は、共和党の州知事だ。知事が医療難民の実情に無理解だから、貧しい依存症患者は治療を受けられないというのだ。
もっとあからさまに政治的なメッセージを打ち出したものもある。先月亡くなったエレーン・フィドライクは「エレーンからのお願い」として、「花束は要らないから、ヒラリー・クリントンには投票しないで」と訴えるメッセージを残した。
パクリ記事にご用心!
驚くことに、故人の「悪事」を暴くものまである。バル・パターソンは、自身が書いたメッセージで学歴詐称を告白した。「(ユタ大学で)学生ローンの支払いに行ったら、事務の女の子が僕の書類を間違えて別のケースに入れた。2週間後、博士号の証書が郵送されてきた。おかげでいきなりドクターさ」