最新記事

BOOKS

ゲイバーは「いかがわしい、性的な空間」ではない

2015年9月25日(金)16時24分
印南敦史(書評家、ライター)

 重要なのは、単にゲイを持ち上げるだけではなく、「ゲイバーは一般のスナックなどにくらべれば廉価だが、サービスの基本がなってないところが多い」など、問題点にもしっかり焦点を当てているところだ。だから読者は、美化されたゲイ像を押しつけられる必要がないのである。


 ゲイについての知識が少ない人には、ゲイが集まるバーは性的な出会いを求めている場所としてのイメージをもつ人が多いかもしれない。しかしじつは、「『ゲイバーでできる』(ゲイバーで知り合ったことをきっかけに性的な関係に入る)ことは少ない」と語られることが頻繁にあり、実際にその傾向は強い。また、ゲイバーへ行く目的をあらためて尋ねると、セックスの相手を探すことをあげる人はきわめて少ないことが、質問紙調査から明らかになっている。(187ページより)

 本書に印象的な記述は数多いが、このパートもまた、私の心に訴えるものだった。簡単なことだ。「ゲイバーではいかがわしいことが日常的に行われている」というのは、ゲイではない私たちの勝手なイメージにすぎず、そこで交わされているやりとりは、一般の飲み屋と大差ないということ。

 先の経験から個人的には、ゲイにはマイノリティーとして生きていくために知性を身につけた人が多いように感じているが、もしもそうだとしたら、場合によってはノンケの恋愛事情の方がよっぽどドロドロしているという見方もできるかもしれない。

 本書の紹介を通じて「共存しよう」とか「手をつなごう」とか、痒くなってくるような理想論を押しつけたいわけではない。ただ、「知っていること」はとても大切だと考えるのである。ともに社会の一員であり、そこには上下関係も優劣もない。それを理解し、「心のどこかにとどめておく」ことこそが、なにより大切なのではないかということだ。

 あのとき上司はたしか9歳上だったから、いま62歳ということになる。グーグルやフェイスブックで探しても出てこないので、元気でいるのか少し心配ではあるけれど、もし生きているのなら、いつか再会したいと思っている。そのときは、馴染みのゲイバーに連れて行ってもらうのもいいかもしれない。

<*下の画像をクリックするとAmazonのサイトに繋がります>


『新宿二丁目の文化人類学
――ゲイ・コミュニティから都市をまなざす』
 砂川秀樹 著
 太郎次郎社エディタス

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中