最新記事

ダークネット

やわらかな日本のインターネット

2015年8月31日(月)16時00分

 政府も社会保障もいらない、という極端な反権威主義と、平等な個人が自発的に助け合うという共同体主義。両者の結合はインターネットの「根本思想」として、いまも私たちの利用するネットのあちらこちらに散見される。バーブルックとキャメロンという二人のメディア学者は、この二つの理念の相乗りを「カリフォルニアン・イデオロギー」と呼び、インターネットという技術が、実はアメリカ社会の理想を体現するものであることを明らかにしたのである。

自由はどこまで守られるべきか

 そのような背景を踏まえてあらためて本書を読み返すと、そこで描き出されている人々が、単に経済的利益だとか自身の快楽だけを目的に「ダークネット」を彷徨っているのではないことが見て取れるのではないか。前に挙げたベルや第3章に登場するアミールなど、ダークネットの世界には、そこでこそ実現される自由を至上のものとして考える人々が無数に存在し、日々活動している。本書の意義は、そうした人々が「何をしているのか」だけでなく「何を考えているのか」をありありと浮かび上がらせた点にある。

 だからこそ私たちは本書を、単なる「アングラレポート」として読んではいけないのだが、もちろん日本の問題を考える際に参考になるところもある。たとえば第2章に登場するポールをはじめとするレイシストやナショナリストたち。日本ではこうした人々は「ネット右翼」と呼ばれ、街頭での醜悪なヘイトスピーチの影響もあって、一般にも問題視されるようになっている。だが、実際にそこで起きているのは、複数の研究やレポートが明らかにするように、ネットでつながった人々の輪の中で「使命と役割」を与えられたことで、その場を抜けられなくなっていくという現象だ。本書ではEDLの創設メンバーであるトミーがまさにそれに当てはまるだろう。

 あるいは、第7章に登場するアミーリアのような「プロアナ」たち。日本のネットではこうした人々は「メンヘラ(メンタルヘルスに問題を抱えた人々)」と呼ばれ、たとえば自殺サイトや自傷サイトに集い、ときに集団自殺に至ることもある(逆に、こうしたサイトのおかげで一線を踏み越えずに済んでいる人々もいる)。ネットで同じような立場や考えの人だけで集まって交流しているうちに、考え方や行動が極端なものになっていく現象は「集団分極化」と呼ばれるが、そうした傾向は、日本だけでなく海外でも顕著であるようだ。

 ともあれ、全体として見れば、やはり英米を中心とした海外の事例を見ると、そこには「強い思想」が背景に存在していることを感じずにはいられない。当然のことながら、それはネットに対する「規制」をどう考えるのかという点においても、大きな違いとなって現れてくる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金総書記、特殊作戦部隊の訓練視察 狙撃銃試

ビジネス

TikTok米事業売却計画保留、中国が難色 トラン

ワールド

アングル:ミャンマー大地震で中国が存在感、影薄い米

ビジネス

米国株式市場=ダウ2231ドル安、ナスダック弱気相
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描かれていた?
  • 3
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 4
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡…
  • 5
    テスラが陥った深刻な販売不振...積極プロモも空振り…
  • 6
    大使館にも門前払いされ、一時は物乞いに...ロシア軍…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    地球の自転で発電する方法が実証される──「究極のク…
  • 9
    4分の3が未知の「海の底」には何がある? NASAと仏…
  • 10
    「パパ、助けて...」壊れたぬいぐるみの「手術」を見…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中