最新記事

ダークネット

やわらかな日本のインターネット

2015年8月31日(月)16時00分

 典型的なのは、過去の失敗などネット上に拡散された不都合なデータをどのように扱うべきかという問題だろう。この問題については、2014年にEUで「忘れられる権利」を認める判断が下され、実際に不都合な情報について削除依頼があれば検索結果に表示されないようにするという取り組みが進んでいる一方で、アメリカにおいては「忘れられる権利を認めることは、知る権利の侵害につながる」という見方が強い。ここにもインターネットの「強い思想」の影響が見て取れるが、では私たちはこの問題についてどのように考えるだろうか。

 人によって見解は分かれるかもしれないが、少なくとも私たちはそこで、どのような立場の人々、どのような権利を守り、どのような自由を制限するのかを選ぶ必要がある。個人がネット上で炎上した記録を削除して欲しいと願うのと、政治家が過去の汚職の記録を検索されないようにしたいと望むのは、まったく別のレベルの話だ。しかしながらこうした出来事について法律などで規制しようとすれば、「自由はどこまで守られるべきなのか」について、明確な意志を社会で共有することになる。そのとき私たちの社会に、本書に登場するような「強い思想」の持ち主はどのくらいいるだろうか。ややもすると「いやがる人がいるなら、規制もやむを得ないのではないか」といった「やわらかな」考え方でもって、際限のない規制や監視を認めてしまうのではないか。

 インターネットは犯罪の温床であってはならないし、まして地下経済化することによって社会の治安に問題が起きることを肯定するための道具でもない。その点で、本書に登場する「ダークネット」の住人たちの振る舞いのすべてを受け入れるわけにいかないのは明らかだ。だがその背景に存在する「強い思想」にまで思いを巡らせるならば、果たして日本のインターネットは「やわらかい」ままでいいのかということもまた、考えられなければならないのではないか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中