ダメ人間の成長を描く『ファミリー・ツリー』
G・クルーニーが悩める父親を演じた話題作には、人物描写にも感情表現にもアレクサンダー・ペイン監督らしさが感じられない
家族の真実 マット(左)は娘2人とともに、人生を変える旅に出る &co@y;2011 Twentieth Century Fox
多くの人から絶賛された『サイドウェイ』から7年。アレクサンダー・ペイン監督の新作『ファミリー・ツリー』には期待していたが、とにかくがっかりさせられた(5月18日に日本公開)。ペインの作品はどれも鋭い皮肉と、根底にある人間愛のバランスが素晴らしい。でもコメディーを装ったこのメロドラマの中心にあるのは酸っぱいレモンではなく、ふにゃふにゃのマシュマロだ。
『市民ルース』の妊娠中絶を考える薬物依存症の女性(ローラ・ダーン)にしろ、『サイドウェイ』のワインを愛する作家志望の教師(ポール・ジアマッティ)にしろ、ペイン作品の主人公は救いがたいダメ人間。それでも観客は、彼らのことが気になって仕方がない。『ファミリー・ツリー』の主人公は、これまでで最も好感のもてる人物だ。でも私はどうしても、彼に心引かれない。
映画の冒頭、主人公のマット・キング(ジョージ・クルーニー)の「楽園なんてクソくらえ」というナレーションが流れる。ハワイのオアフ島に住み、弁護士として成功し、先祖から受け継いだ広大な土地をカウアイ島に所有する彼には何の悩みもないはずだ、と考える友人たちをマットはうらめしく思っている。
そう、マットもややこしい問題と闘っているのだ。先祖代々守ってきた原野を開発業者に売却するかどうか決めなければならないし、妻エリザベス(パトリシア・ヘイスティ)はスピードボートの事故で昏睡状態に陥っている。彼女が再び目覚めるかどうかは分からない。
4人組の旅立ちにわくわく
妻の入院中、父親としてうまく振る舞おうと四苦八苦するマットを、10歳のスコッティ(アマラ・ミラー)と、全寮制の高校から一時帰宅した17歳のアレックス(シャイリーン・ウッドリーが最高の演技をみせる)は冷たい目でみる。育児は妻に任せきりだったマットはこれまで、娘たちとほとんど没交渉だった。
ところが反抗的だったアレックスが、ふとした瞬間に父に心を許し、こう告白する。私はママが許せない、だって浮気していたんだよ――。やがて浮気相手は地元の不動産業者ブライン・スピアー(マシュー・リラード)で、エリザベスはマットと離婚するつもりだったことも判明する。マットは激怒する一方、スピアーに妻の現状を伝えることを決意。娘2人とアレックスのボーイフレンドを連れて、カウアイ島に滞在するスピアーを訪ねる。
こうした設定は、ペインが得意とするところ。ヒーローにはほど遠い変人が自分を変えようと、ばかげた冒険の旅をするロードムービーだ。この不似合いな4人組が旅に出たらどうなるのだろう、と私はとてもわくわくした。なのにカウアイ島に着くと、前半のコミカルな雰囲気はたちまちしぼんでしまう。ペインは何もせず、マットたちが海岸線を歩き回り、けんかしながら結び付きを強めていくのをただ眺めて満足しているようだ。
『ファミリー・ツリー』は愛や喪失、悲しみをめぐるつらい真実を突き付ける。一方で、感情表現がどこか不安定に感じられる。真面目くさった不条理か、心揺さぶるメロドラマの2つのパターンしかなく、しかもそれらを切り替えるたびにギシギシという音が聞こえるようだ。ジョークは面白いし、ほろりとさせる場面もある。でもいつものペインの調子とは違う。