最新記事

映画

新『ベスト・キッド』に合格点

W・スミスの息子主演で復活した80年代のヒット作はオリジナルのファンを裏切らない

2010年9月13日(月)14時37分
デーナ・スティーブンズ(脚本家)

師弟の絆 特訓を受けるうちに少年(スミス)は師匠(チェン)を尊敬するように 

 リメーク版の映画、特に名作のリメークに付きまとう疑問は、「なんでまた」だ。人はこの言葉を、時にはため息交じりにつぶやき(「ニコラス・ケイジの『ウィッカーマン』? なんでまた」)、時には天に向かって叫ぶ(「トム・クルーズとケイティ・ホームズの『ラストタンゴ・イン・パリ』? なんでまた!」)。

『ベスト・キッド』のリメーク版への「なんでまた」には、中くらいの怒りが籠もっているだろう。84年公開のオリジナル版では、ノリユキ・パット・モリタ演じる空手の達人がいじめられっ子のダニエル(ラルフ・マッチオ)を指導して、空手の大会で優勝させる。公開当時は、汗と涙のスポ根ものに見えたかもしれないが、いま振り返ってみると、とてもよくできた映画だ。人物のちょっとした特徴も丁寧に描き、少年の心に師匠への尊敬が芽生える過程をじっくり追っている。職人の技が冴える作品で、いま見ても新鮮だ。

 ということは、オリジナル版を支えた映画人魂を汚さないことが、リメーク版の第1の条件。この点では、リメーク版は十分過ぎるほどに成功している。

 クリストファー・マーフィーの脚本は、オリジナル版に非常に忠実だ。時にはせりふの一言一句までそのまま残している。マーフィーに加えて、監督のハラルド・ズワルトに拍手を送りたいのは、ドラマ中盤の、ともすれば中だるみになりがちな部分を重視した点だ。上映時間は2時間半近くと、オリジナルより少し延びたが、格闘場面を増やしたわけではなく、師弟の信頼関係が育まれる過程にたっぷり時間を取っている。

 派手な中国武術のスタントが繰り広げられ、骨が砕かれるような効果音(今どきの映画の暴力シーンには付き物だ)も入るため、格闘場面はオリジナル版より迫力がある。とはいえ、オリジナル版のファンが恐れるようなCGを多用した、ちゃちなカンフー映画にはなっていない。同級生をボコボコにするために修行を積む11歳の少年の物語としては、これ以上考えられないほど心温まるドラマだ。

年齢設定を変えた狙い

 オリジナルと大きく違うのは、まず主人公の年齢を下げたこと。オリジナル版の主人公ダニエルは15歳の高校生だったが、リメーク版のドレ・パーカーはまさに「キッド(がきんちょ)」だ。年齢設定を変えた理由は容易に分かる。今の15歳児は、84年当時よりもすれている。今の高校生はひ弱で純朴なダニエルに感情移入できないだろう。それに、主人公が11歳ならもっと幼い子供を連れた家族客が見に来ることも期待できる。

 もう1つ大きな違いは、物語の舞台だ。オリジナル版では主人公と母親はニュージャージーからロサンゼルスに移ってくる設定だったが、今回はドレと母親(タラジ・P・ヘンソンが辛辣なジョークで笑わせる)はデトロイトから北京へと移り住む。

 ドレは新しい環境に溶け込めない。友達はいないし、中国語はまるでダメ。しかも、カンフー少年チョンとその子分たちの執拗ないじめに遭う。唯一の救いは、かわいいバイオリンの天才少女メイ(ハン・ウェンウェン)の存在だ。

 ある日の放課後、ドレはチョンたちに囲まれる。あわやボコボコにされると思ったその瞬間、ドレの住むアパートの無口な管理人ハン(ジャッキー・チェン)が登場。少年たちにほとんど手を触れず、コミカルなカンフーでやっつける。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中