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映画悠々自適の名優ライフ
40年来トップを走り続けるイギリス屈指の演技派の、妻と仕事とガーデニングを愛する静かな老後をキャッチ
愛こそすべて 気の合う仲間と気に入った映画だけを作っているというケイン Shannon Stapleton-Reuters
1933年のロンドンで、清掃作業員の母と魚市場で働く父の元に生まれたマイケル・ケインは、40年以上スターの座に君臨してきた。64年の『ズール戦争』で注目されて以来、コンスタントに活躍。『ダークナイト』では前作に引き続き、バットマンに忠義を尽くす執事を好演したのも記憶に新しい。
『ハンナとその姉妹』『サイダーハウス・ルール』でアカデミー賞に輝いた名優が、最新作に選んだのは『イズ・エニバディ・ゼア?』。引退したマジシャンが老人ホームに入り、死に妙な関心を抱く経営者の幼い息子と友情を結ぶ物語だ。本誌ニッキー・ゴスティンにケインが近況を語ってくれた。
――新作の撮影は楽しめました?
ああ、楽しかった。素晴らしいキャストとスタッフに恵まれたし、今の私は働きたいときだけ働き、完璧主義を通せるからね。最近は愛を感じられる作品だけを選び、気に入った人としか働かないんだ。
――老人役は気が滅入る?
いやいや、今回は実におかしな爺さんで、演じるのが楽しかった。ラストもシリアスになりすぎない演技を心がけたよ。それに私が演じたクラレンスはアルツハイマー病を患っている。自分の身に何が起きているかわからないんじゃ、滅入りようもない。
――マジシャンを演じるに当たり、誰かにアドバイスを頼んだ?
うん、髪は真ん中で分けることにした。撮影現場に来てくれたマジシャンに聞いたんだが、希代の奇術師フーディーニがそうしていたとかで、マジシャンはみな真ん中分けなんだそうだ。
――『ジョーズ1987 復讐篇』に出たときは、家のリフォーム資金にでも困っていたんですか。
さあ。
――いや、なぜあんな駄作に出たのか不思議で。
出たといっても、ほとんどカメオ出演だよ。10分程度の。
――ではお金のために?
それは違う。どのみち、私が責任を負うのは主演作だけ。今まで75~80本に主演してきた。
――恐るべき業績です。
今も主役を張っているとはね。ただし、次の仕事は決まっていない。言ってみれば失業中さ。この間も「引退したんですか」と聞かれたよ。気に入った脚本がなければ、このまま引退だろうね。やりたい仕事しかしないから。1年半休んで、暇にも慣れてきた。
――オフのときは何を?
物を書き、庭仕事をやり、料理を作り、旅に出る。私はものすごくマメな男で、家族と一緒にいるのが大好きなんだ。だからすることはいくらでもある。
――庭で育てるのは野菜? それとも花?
なんでも育てるよ。21エーカーと広いんでね。
――地面にはいつくばって、土で手を汚す?
そうだよ。庭師と一緒に庭に出ている。
――お気に入りは?
野菜だね。食べられるから。買った野菜よりずっとうまいんだ。
――殺虫剤は使いませんよね?
私の庭は100%オーガニック。ウジ虫にも居場所はある。
――おしどり夫婦で知られています。結婚を長続きさせる秘訣は?
バスルームを別にする。これは基本中の基本だ。それから対等な関係を保ち、互いにとことん尽くすこと。うちみたいにね。
――結婚して何年になります?
38年。
――40周年は盛大に祝います?
どうだかね。それまで生きていられたら、それだけで御の字だ!
――クリスチャン・ベールが『ターミネーター4』の現場で暴言を吐いた事件はご存知ですか。
ああ、聞いた。
――『バットマン』の撮影中、彼がキレるのを目撃したことは?
一度もない! クリスチャンは汚い言葉も使わない男だから、あのニュースにはただただ驚いた。私のほうが口が悪いくらいなんだ。
クリスチャンが暴言を吐いたのは驚きだが、役者はかんしゃくを起こすものだ。撮影現場では誰かが注意散漫だったり、きちんと物事が運ばなかったりということがままある。私だって昔は爆発した。あの一件で腹立たしいのは、一部始終を録音していたバカがいたことだ。ああいう手合いは嫌いだね。
――ロンドンの下町っ子ならではの言葉遊びを教えてください。
「トラブル・アンド・ストライフ(災難とけんか)」でワイフの意味。「エイモス・アンド・アンディ」はブランデー。