セックスと愛とシングルライフ
風刺を求めても無駄
30代以上の女性が「妥協」を考えはじめる一方で、10〜20代の女性たちは「自分は4人の主人公のうちで誰に似ているか」といった話題で盛り上がっている。視聴者の年齢の中央値は33歳。放映開始時から5歳下がった。
ベネットは『SATC』を「小さな解放運動」と呼ぶ。「『SATC』はセックスの概念やイメージを覆し、恋人探しの基準を変えた。セックスをレストランでも語り合える話題にし、いろいろな男とつき合うのは悪いことじゃないと教えてくれた」
セックスに対する人々の意識を『SATC』が変えたのは確かだ。だが、ベネットの世代は『SATC』を過大評価している。放映が始まった当時、『SATC』は20代の女性たちにセックス指南をしたわけではない。視聴者の性生活をドラマに取り入れてテレビに映し出し、もっと大胆になりなさいとけしかけただけだ。
公然と女性の性欲を肯定したのは、『SATC』が最初ではない。往年のセックスシンボルで女優のメイ・ウエストは何十年も前に、「カタい男っていいものよ」と甘い声でつぶやいた。
女性の多様な性欲に市民権を与えたという点では、マドンナの右に出る者はいない。92年の写真集『SEX』のマドンナに比べたら、『SATC』の4人はお行儀のいい小娘だ。
社会変革に対する『SATC』の貢献度は、それほど大きくなかった。結婚にとらわれない恋愛や人生の意味について、キャリーは何も答えを出さなかった。答えを出すより、どうしたらいいのかと問いかけた。私たちと同じように混乱した心のうちを、そのままさらけ出した。
だからこそ、ファンはキャリーの家を訪ねて感涙にむせぶ。心は気まぐれで、手なずけることはできないけれど、仲間がいるのは素晴らしい――このメッセージが『SATC』の「長寿」を支えているのだろう。
理想の王子様探しへの風刺をこの作品に求めても無駄だ。『SATC』が描くのはマノロ・ブラニクのハイヒールを愛するシンデレラ、幸せ探しに夢中のヒロインなのだから。
[2008年8月27日号掲載]