ヒーローたちが泣いている
映像作品として難あり
原作は多数のキャラクターがからむ殺人ミステリーだが、ギリシャ神話や古代エジプト史の要素が巧みにちりばめられている。なんともユーモラスで残酷、セクシーで低俗、そして感動的だ。
映画の上映時間は2時間40分。この大作を見ればスナイダーの原作への入れ込みようがよくわかる。色調、コスチューム、構図など細部まで原作そのまま。原作のファンは大満足にちがいない。
しかしこれでいいのだろうか? 原作に心酔していない私に言わせれば散漫な映画で、作品として成立しているとは思えない。
リチャード・イエーツの小説を映画化した『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』について、ライターのウィリング・デービッドソンはこう書いた。サム・メンデス監督の映画は原作に忠実すぎて、「まるで学芸員が手がけたようだ」。
同じことが『ウォッチメン』にも言える。スクリーンで見る冷戦時代の恐怖はひどく古臭い。スナイダーは原作が描く世界の終末のテーマを、工夫せずにそのまま映像に移し替えた。ここが問題だ。原作に忠実でないとコアなファンに嫌われるが、忠実すぎると一般の映画ファンにそっぽを向かれる。
このバランスを取ることに成功した監督は数少ない。成功者の一人が『ゴッドファーザー』のフランシス・コッポラだ。彼は大胆にも、原作には少ししか出てこない結婚式のシーンを大きくふくらませて冒頭に置き、クライマックスには洗礼式とマフィアの抗争を交互に見せた。
コミックスやファンタジーの映画化は今や珍しくない。映画化で重要なのはクリストファー・ノーラン監督の『バットマン ビギンズ』のように新たな息吹を与えることだ。
J・R・R・トールキンのファンタジーを丁寧に映画化したピーター・ジャクソン監督の『ロード・オブ・ザ・リング』3部作も成功例だ。ジャクソンはスナイダーとは違い、必要だと判断したときには容赦なく原作を無視した。