最新記事

教育

「脳まで筋肉の柔道選手」と中傷された彼女が医学部合格を果たした、たった一つの理由

2021年11月30日(火)19時15分
朝比奈 沙羅(柔道選手) *PRESIDENT Onlineからの転載

その気持ちを父にぶつけた。輝哉氏の返答は意外なものだった。

「じゃあ、医学部進学をやめれば?」

「は? ってなりましたよ。今まで散々、医者になれ、医者になれって口うるさく言ってきたくせに、今さらそんなこと言うなんて、ふざけんな! って。結局、とにかく医学部の受験まではしっかりやります。でも、その先はわかりませんから! と父に宣言して、勉強を続けたんです」(沙羅選手)

しかし、結果は不合格。

「悔しくて悔しくて、人目もはばからず、地下鉄で号泣してしまいました。そのとき思ったんです。こんなに悔しいと思うってことは、自分はやっぱり医学部に入りたいんだなって」(沙羅選手)

高3は医学部受験に失敗しても、浪人はせず

改めて医学部進学への意欲を高めた沙羅選手だったが、この後の動きもまた、輝哉流が貫かれることになる。東京五輪代表を決める時期でもあり、朝比奈家は"浪人"という選択をしなかったのだ。

「通常、現役、浪人生の医学部進学のチャンスは、大学入学共通テスト(旧センター試験)を受けて各大学の2次試験を受ける国立大学受験か、一般入試の1次試験と2次試験を受ける私立大学受験の2パターンのみです。学校推薦を得る方法や海外進学の道もありますが、それ以外に、私はもっと入試のチャンスを増やす"オプション"を探っていました。まず、現役受験のときに他学部を併願し、入学しておくのです。大学生としてキャンパスライフを謳歌しながら、大学レベルの数学や物理、語学を学び、学士編入学、総合型選抜(旧AO入試)の受験資格を得る。加えて一般入試の再受験を狙う。どうでしょうか、浪人を否定しませんが、医学部合格のチャンスが確実に広がるでしょう」と輝哉氏。

実際、沙羅選手は現役のとき、医学部のほか、東海大学の工学部と体育学部を受験し、体育学部に合格している。

「浪人生活では得られない友達をつくることができ、医学部とは別の世界を広げることもできます。部活にも力を入れられる。もちろん、この選択にはデメリットもあります。医学部再受験までに長い時間がかかりますし、その間に"仮面浪人"呼ばわりされるなど、周囲からいろいろな雑音が入って、本人のモチベーションを下げてしまう危険性もあります」(輝哉氏)

「脳まで筋肉の柔道選手に医学部合格はできない」誹謗中傷にも耐えた
事実、朝比奈親子は、様々な"雑音"にさらされることになる。受験業界、医学界からは「受験をナメるな」「脳まで筋肉の柔道選手に医学部合格なんてできるわけがない」、また柔道界からも「オリンピックが狙えるのに、よそ見をしている」などの誹謗中傷が寄せられた。

「沙羅は絶対に柔道と勉強を両立させ、医学部合格を勝ち取ることができる強さを持っている。親が信じないで、誰が沙羅を信じるのか。私はブレることなく、固くそう信じていました。結果はどうであれ、最後の最後まで私が全力で沙羅を支えようと覚悟を決めた時期でもありますね」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:カナダ総選挙が接戦の構図に一変、トランプ

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中