最新記事

ビジネス

26歳社長は「溶接ギャル」 逃げた転職先で出会った最高の「天職」

2021年9月11日(土)16時08分
村田 らむ(ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター) *東洋経済オンラインからの転載

「私、道を覚えるのが苦手なんですよ。普段はナビを使っているからいいんですけど、コンクリートミキサー車が行く現場って、開拓中だったりしてナビの地図に載ってない場所が多いんです。迷子になったらダメだっていうプレッシャーがすごいんですよ」

そしてなんとか現場に到着しても、仕事は終わらない。

「現場に到着したら、ミキサー車をコンクリートポンプ車の横に駐車して、レバー操作で生コンを注入していかなければならないんです。タイミングがズレるとコンクリートがあふれ出したり、『コンクリートが届かないぞ!!』って怒られます。そして生コンを入れ終わったら、毎回すぐに洗車しなければならないんです」

洗車をしないとコンクリートが固まり、故障の原因になるからだ。

雨が降っていても、雪が降っていても、備え付けの水と道具でコンクリートを洗い流さなければならなかった。それもゆっくりと作業してはいられない。ぐずぐずしていると会社から無線が入り、

「次がつかえてるから早く戻ってきて!!」

と、どやされた。

毎日何往復も作業を繰り返した。

「先輩が付き添ってくれたのは最初の2週間で、それからは全部自分でやらなければなりませんでした。とにかくストレスがすごくて、いつしか血尿が出るようになりました」

病院に行きたかったが、唯一の休みの日曜日は病院が休みで行けなかった。

「病院に行きたいので休ませてください」

と上司に願い出ると

「スケジュール組んであるから無理だ!!」

と断られた。

「1週間以上前に言ったのに『ダメ』って断られたんです。もうボロボロで『このまま行くと、起き上がれなくなるな』と思って辞めました」

辞めた後、粉すけさんは福井市に戻ってきた。そして、現在の夫と結婚した。

「精神的にも肉体的にもボロボロになってたので、しばらく実家でダラダラしていました。父の友人が、自動車関係の仕事をしていたので『そこで勤めてみないか?』と誘われました」

粉すけさんは、パッカー車(ゴミを圧縮して運ぶ収集車)やバキュームカー(汲み取りを行う自動車)の故障箇所を溶接する仕事を積極的にした。

「『溶接なら臭くても平気!! 整備よりずっといいよ!!』って生き生きと仕事をしてたら、周りからは『どうかしてるよアノ女』って言われてました(笑)。毎日、泥水まみれになりながら仕事してました」

働きが評価され全国溶接技術大会へ出場

粉すけさんの働きは評価された。

『全国溶接技術競技会』に出場しないか? と誘われ、2年連続出場した。

「ただ問題だったのは、1人だけすごいイジメてくる上司がいたことです。

『現場に女がいるのが許せない』

っていう古いタイプの人でした」

2017年、福井県は記録的な豪雪になった。約1500台の車が立ち往生し、雪山に乗り上げた自動車に乗っていた男性が一酸化炭素中毒で亡くなるといういたましい事故も起きた。

その経験を踏まえて、除雪車を購入したり、社員に除雪車の資格をとらせたりする会社が増えたという。

「みんなは整備以外の仕事はしたくないって言ってやりたがりませんでした。ただ私は会社にいて上司にいびられるくらいなら除雪車に乗ってるほうがいいと思って立候補しました。大型特殊免許と除雪作業の資格(除雪機械運転員資格基準)を取りました。

ただそうやって大雪にそなえたけど、翌年はまったく降りませんでした。世の中そういうもんですよね(笑)」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

JT、カナダの訴訟和解で引当金3756億円 配当予

ワールド

ドゥテルテ前比大統領、国際刑事裁が逮捕状発布なら応

ビジネス

街角景気3ポイント悪化し2年半ぶり低水準、物価高と

ビジネス

1月の独輸出は前月比2.5%減、鉱工業生産は予想以
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    ラオスで熱気球が「着陸に失敗」して木に衝突...絶望的な瞬間、乗客が撮影していた映像が話題
  • 3
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手」を知ってネット爆笑
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 6
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 7
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 8
    鳥類の肺に高濃度のマイクロプラスチック検出...ヒト…
  • 9
    中国経済に大きな打撃...1-2月の輸出が大幅に減速 …
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題に...「まさに庶民のマーサ・スチュアート!」
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 6
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 7
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 8
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 9
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 10
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中