最新記事

ビジネス

26歳社長は「溶接ギャル」 逃げた転職先で出会った最高の「天職」

2021年9月11日(土)16時08分
村田 らむ(ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター) *東洋経済オンラインからの転載

reuters__20210910193200.jpg

溶接ギャル、粉すけさん(写真:筆者撮影)


粉すけさんが選んだ国家資格は『ガス溶接』だった。選んだ理由は、スケジュール的にたまたまいちばん早く試験を受けられる国家資格がガス溶接だったからだ。

19歳の女性はあまりガス溶接の資格を取らない。会場に行くと、受付担当者が戸惑った表情で、

「こんな資格取っても、役に立たないべ」

と言った。

講習を受けた後に、実習で実際に溶接を体験した。アセチレンガスと酸素が燃焼する際に発生する熱で、鉄板を切ったり、溶接したりした。

粉すけさんは無事、国家資格を取得した。

「資格をとっていきなりとび職になりました。金を稼ぐには肉体労働しかない!! と思っていました」

とび職といえば、ビルの足場を組んだりする高所での作業が一般的だが、粉すけさんが入った会社は一風変わった現場が多かった。

「石油の備蓄基地ってあるじゃないですか。円筒形の石油タンクですね。あの中に入ってひび割れの点検をする仕事をしました」

円筒形の石油タンクは、石油が入っているときは天井が浮き、入っていないときは天井が下がるシステムだ。検査をするときは当然石油が入っていないので、ギリギリまで天井が下がっている。最も下がっている場所では、匍匐前進で進むしかなかった。

「タンク内は真っ暗で、ブラックライトで床を見てヒビが入ってないかチェックしながら匍匐前進で進んでいくんです。真っ暗な中、腹ばいになってるわけだから、みんな寝ちゃうんです。グーグーイビキが聞こえてました」

山奥のダムでの現場では、水をせき止めている制水ゲートのチェーンを全員で引っ張りあげた。チェーンは錆びないようにグリースを塗って元に戻した。

ソーラーパネルの現場では、ソーラーパネルの基礎になる4メートルほどの角材をひたすら運んだ。

「私は背が低いから、少し傾くと角パイプが下についちゃうんですよ。親方からは、

『2本かついでるヤツもいるんだぞ!!』

とどやされました。ソーラーパネルを設置する場所だから、当然日陰のない更地です。直射日光を浴びながらの作業になります。終わった頃には、肩は脱臼寸前。内出血で真っ青になってました」

ガス溶接の資格があるため、鉄工所に派遣されたこともあった。

親方が溶接した場所を、グラインダーで削ってなめらかにする作業だった。

「体育会系の親方ですぐに角材で頭を殴るんですよ。ヘルメットの上からでも頭が割れるかと思いました。親方からのパワハラに耐えられなくなってやめました」

とび職を辞め、自動車整備の道へ

半年でとび職を辞めた。

次は自動車関係の仕事がしたいと思った。

「自動車の整備士ならずっと、車をいじってられるんでしょ? って安直に思いました」

ただなかなか自動車関係の仕事は見つからず、やっと決まった会社に行くとトラックが並んでいた。

「ええ......トラックか......」

と粉すけさんは戸惑った。

迎えてくれた会社の人たちは、

「ガス溶接の資格持ってるんだ!! いいね!!」

と喜んでいた。

粉すけさんとしては整備士として働くつもりだったが、職業欄を見たら『職種 溶接工』と書かれていた。

「今、整備部門には人がいるから、とりあえず溶接の仕事をしてて」

と言われた。

角パイプを青い炎で溶断し、トラックに穴を開けて溶接する。そんな仕事を毎日、朝8時半から夕方6時まで繰り返した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は3日ぶり反発、エヌビディア決算無難通過で

ワールド

米天然ガス生産、24年は微減へ 25年は増加見通し

ワールド

ロシアが北朝鮮に対空ミサイル提供、韓国政府高官が指

ビジネス

午後3時のドルは154円後半、欧州PMIでユーロ一
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中