出口治明「社会的責任を叫びながら、いざ不祥事になると平気で居座る経営者はおかしくありませんか」
Newsweek Japan
<SDGsの時代、社会への還元が求められているが......。欧米の寄付文化から、日本の攻撃的ナショナリズム本まで。「労働と信用」「カネと信用」について立命館アジア太平洋大学の出口学長に聞いたインタビュー最終回>
貧困をなくす、ジェンダーの平等を実現する、働きがいと経済成長を両立する、など17の目標を掲げるSDGs(持続可能な開発目標)が国連サミットで採択され、いま世界的にも自社の利潤追求だけではなく、社会に利を還元する企業活動が尊ばれるようになってきている。
経済記者である栗下直也氏が、「ビジネスと信用」の切り離せない関係について解説した『得する、徳。』(CCCメディアハウス)によると、米国最大規模の経済団体「ビジネス・ラウンドテーブル」は、昨年、約50年の歴史の中で初めて株主至上主義を廃止すると発表し、その声明には「米国資本主義の権化」と見られるような大企業までもが署名している。
声明は公正な給与を提供すること、地域社会を支援すること、下請けなどに対して倫理的態度を取ることなどを新たな優先課題として位置づけており、このことは「会社は株主の利益を追求する道具である」という思想に新たな視点を投げかけたと言える。
『得する、徳。』の刊行を記念し、立命館アジア太平洋大学(APU)の出口治明学長に社会人として働く心得を聞く3回連載の最終回は「儲かった人は寄付しなきゃいけないのか」。
※インタビュー第1回:出口治明「日本は異常な肩書社会。個人的な人脈・信用はなくても実は困らない」
※インタビュー第2回:出口治明「人間は皆そこそこに正直でかつずる賢いしお金に汚い。基本的には信頼するしかない」
――海外では、巨額の報酬を得ている経営者が積極的に寄付をしています。一方、日本の経営者はあまり寄付しないという批判もありますが。
海外はキリスト教が根付いていますからね。キリスト教はイスラム教と同じで、金儲けが嫌いなんですよ。ユダヤ教は金儲けに対してそれほど厳格ではなかったのですが、キリスト教とイスラム教は「神様は金儲けが嫌い」という教義をつくりました。だから、中世のヨーロッパでは、キリスト教徒は金融業に従事できなかったのです。
ところが、ローマ教皇が気付いてしまった。ユダヤ教徒はえらく金儲けをしているじゃないか、と。そこで、キリスト教徒に金融業を認めれば、彼らも金持ちになって、ローマ教会にもっとお布施を持ってくるかもしれないと。
ただ教義で、金儲けはあかんと言ってしまっているので、そこを工夫する必要がありました。ローマ教会はキリスト教徒の商人にこうささやいたのです。金融も利子も許す。本来は神様が嫌っていることを、特別に認めてやるのだから、その代わりに儲けたら寄付しないと、地獄に落ちるぞと脅したのです。
だから、まず教会へたっぷり寄付して、それだけでは足らないので地域などにもたくさん寄付するという文化が生まれたわけですよ。