最新記事

インタビュー

出口治明「人間は皆そこそこに正直でかつずる賢いしお金に汚い。基本的には信頼するしかない」

2020年4月1日(水)11時30分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

Newsweek Japan

<部下を信用するにはどうすればいいか、監視社会で人の倫理観は変わるのか。「労働と信用」「カネと信用」について立命館アジア太平洋大学の出口学長に聞いたインタビューの第2回>

経済記者として、大企業の経営者など財界人を取材してきた栗下直也氏――2冊目の著書となる『得する、徳。』(CCCメディアハウス)では、なぜ経営者はよく論語を壁に貼っているのかという素朴な疑問からスタートし、信用とビジネスでの成功の切り離せない関係について解説している。

ここでは、その刊行を記念し、立命館アジア太平洋大学(APU)の出口治明学長に「労働と信用」「カネと信用」についてインタビュー。3回連載の2回目となる今回のテーマは「部下を信用するにはどうすればいいか」だ。

※インタビュー第1回:出口治明「日本は異常な肩書社会。個人的な人脈・信用はなくても実は困らない」

社会人も管理職ともなれば部下との関係に頭を悩ます人は多いだろう。『得する、徳。』では、500近い企業を立ち上げた「日本資本主義の父」こと渋沢栄一、東京芝浦電気(現・東芝)再建への尽力で知られる後の経団連会長・土光敏夫、そして、篤志家として名高い日本理化学工業会長・大山泰弘など、偉人たちのマネジメント術も多数紹介されている。

上場企業で経営者の経験もある出口学長の場合は、部下をどのように信用し、付き合ってきたのだろうか。

◇ ◇ ◇

――出口さんの愛読書である『貞観政要』(唐の皇帝の李世民と臣下たちの言行録)にも、マネジメントする人は部下を信頼しろとありますね。ただ、残念ながら現代の日本では、部下を信用せずにガチガチに管理したがるオジサン管理職も少なくありません。出口さんはどうでしたか。

そりゃ、100%信用していましたよ。信用できなかったら、どうするんですか。最終的には、どこかで信用する以外の方法はないわけですから。

信用しないということは、最終的には自分で全部やることになりますから、とてもしんどいじゃないですか(笑)。人とご飯を食べたりお酒を飲んだりする時間も減るし、本も読めなくなる。上司部下に限らず、対人関係は相手を疑いだしたら、きりがないですよ。

人間は皆、そこそこ正直で、でも同時にずる賢いし、そこそこお金に汚い。立派な人なんか、皆が思っているほどいないんですよ。僕は(作家でベ平連の運動家だった)小田実さんの「人間みなチョボチョボや」を信奉してるんです。みんな同じやと、同じ穴の狢(むじな)や、大して変わらない存在だと。

似たような者同士だから、基本的には信頼してますよ。別に裏切られても、僕が大金持ちでしたら痛い目にも遭うかもしれませんが、お金はほとんど持っていません。僕自身は「悔いなし、貯金なし」の人生で、皆さんが思うほど、お金はないんですよ。日本生命時代に会社の積み立て貯金の額が少な過ぎて部下に心配されたくらいです。

昔から賢人がいっています。「去る者は追わず、来る者は拒まず」と。来たい人は僕に興味があるわけだから、来たら受け入れて話をしますし、信用すればいい。去る人は僕に魅力がないから去っていくのだから、追いかけてもしかたがない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 6
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 7
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 8
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 9
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 10
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中