イノベーション流行りの日本が、順位を4位から25位に落とした理由
オープンではなくトゥルーがうまくいく理由
イノベーションを生む手法として、近年、企業などが積極的に取り入れているのがオープン・イノベーションだ。外部からの人材や情報をオープンに取り入れ、自社が持つ強みや資源と組み合わせることで、新たな価値を生み出そうというアプローチである。
本書の中で、大手メーカーのエンジニアやデザイナー、外資系コンサルティング企業の若手社員、さらに日本有数の大学も参加する、ある製品開発カンファレンスに著者が携わったときの話が紹介されている。多くの優秀な人材が集まったものの、そこから製品化されたものは1つもなかったそうだ。
カンファレンスでは、参加者の多くが、それぞれの専門性によって「誰かの課題」を解決しようという高い志で動いていた。だが、そうした"他人ごと"を目標設定にすると、長い時間とそれなりの開発資金を必要とするようなモノづくりを支えきれない。誰かのための「すべき」ではなく、自分が「とにかくしたい」という想いがなければ、いずれ求心力を失ってしまうのだ。
自分ごとのモノづくりは、たった1人のアイデアから始まる。大きな資金力もないので、コツコツと開発を進めていくことになる。しかし、強い情熱には徐々に共感する人々が集まり、資金が集まり、プロジェクトは勢いを増していく。そうして、期待をはるかに超える成果を上げることもある。
「お一人様モノづくり」として始まったプロジェクトが、本来の企画者の能力を大幅に上回る価値を生み出す。それこそが「他に類のない『本物(トゥルー)』のイノベーションであり、他の誰でもない自分に『誠実(トゥルー)』なイノベーション」だという。
三木氏の会社が運営する自社製品・サービス開発講座「zenschool(ゼンスクール)」では、このような自分ごとから小さく始める「マイクロモノづくり」を推奨。本書では、その「zenschool」のメソッドで生まれ、実際に成果を上げているイノベーション事例として、手術などの際に医療従事者の体力的負担を軽減できる、身に着けて移動可能なイス「archelis(アルケリス)」や、差別化の難しいタクシー業界で、単なる移動手段にとどまらない心への作用を重視した新サービス「想い出タクシー」が紹介されている。
イノベーションに必要なのは議論ではなく対話
自分の内から湧き起こる「トゥルー・イノベーション」に対して、外部の情報を拠り所とするものを本書では「ミー・トゥー・イノベーション」と名付けている。
多くの人が「Me too(私も!)」と共感することを軸にして、製品・サービスを開発していく進め方で、巷の新規企画はたいていそうやって立てられている。だが、このやり方では結局、似通った競合製品で溢れ返った「レッドオーシャン」に身を投げ出すことになりかねない。