最新記事
キャリア

「均等法第一世代」独身で昇進を続けた女性が役職定年を機に退職した理由

2024年12月18日(水)17時16分
奥田 祥子 (近畿大学 教授) *PRESIDENT Onlineからの転載

これまでもこれからも「仕事ひと筋」

「あのー、失礼ですが......」

「あっ、結婚ですか? お気遣い無用です。結婚も出産もやめて、仕事ひと筋、ってことです。子育てをしていたら、男性と同じように会社の業務命令に従うことができず、課長にはなれていなかったでしょうし、家庭と両立しながら能力を発揮するのは難しいですから」

当時は今とは異なり、女性の管理職登用どころか、女性が出産後も就業継続することが容易ではなかった時代。企業は、女性社員の子育てなど家庭との両立支援策に頭を痛めていたのが実情だった。そんな時代を「仕事ひと筋」でこれからも頑張るという横沢さんが、逞しくも見えた。


過剰な「配慮」への不満

その後、時流に乗って、企業の多くが女性社員の仕事と家庭の両立支援本格化へと舵を切る。横沢さんのように「仕事ひと筋」で頑張ってきた生き方とは異なる女性のライフスタイルを、社会も推奨し、応援するようになっていくのだ。

2007年に政府と経済界、労働界、地方公共団体の合意で「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」が策定されたことを契機に、「ワーク・ライフ・バランス*1」という言葉・概念が広まり始めたことも背景にはあった。

一方で、独身を貫き、男性社員と同様、長時間労働もこなし、地方支社への転勤も経験してきた横沢さんにとっては、子育てをしながら就業継続し、育児休業(育休)だけでなく、時短勤務や時間外労働(残業)の免除、転勤の見合わせなど、さまざまな「配慮」を受けている女性社員の働き方には、物申したいところがあるようだった。

07年頃を境に不満は次第に強まり、笑みを見せることもほとんどなくなる。関西の支社への3年間の転勤を経て東京本社に戻り、広報部の部次長に昇進してから3カ月ほど経った10年のインタビューで、当時47歳の横沢さんは、どうにもやりきれない思いを打ち明けた。

「結婚、出産しても仕事を辞めず、子育てしながら働き続ける女性を増やすことが、世の中の流れだということはわかっています。『女性の社会進出』と言われれば、反論することはできませんし......。でも、どこか、違う、と思うんです」

*1 2008年に労働契約法の条文に「仕事と生活の調和にも配慮しつつ」労働契約を結ぶ、という文言が盛り込まれたことも、ワーク・ライフ・バランスという言葉・概念が社会に浸透するきっかけとなった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中