最新記事
キャリア

「均等法第一世代」独身で昇進を続けた女性が役職定年を機に退職した理由

2024年12月18日(水)17時16分
奥田 祥子 (近畿大学 教授) *PRESIDENT Onlineからの転載

「女の闘いなのかも」

「何が、違う、とお考えですか?」

「育児との両立のために女性社員に過剰に『配慮』することですね。例えば、育休を取得した女性社員のいる部署は欠員1のまま職務を遂行して、職場復帰しても、時短勤務、残業免除などとなると、その分、他の社員の負担が大きくなります。本人も『配慮』、つまり仕事の量も質もセーブしたぬるま湯状態から抜け出すことができず、総合職でも出世の道を逃してしまう。本人が昇進を望まないことも多いですが......。その一方で、負担が重くのしかかったある30代独身の女性の部下が辞めていきました。彼女のつらさに気づいて、十分にフォローすることができずに責任を感じているんです。うーん、何と言ったらいいのか......」

横沢さんが言いよどみ、しばし沈黙が訪れる。自身の考えをうまく言語化しようともがいているようにも思えた。と、急に靄(もや)が晴れたように、誰に語りかけるともなく、ぽつりとこう、つぶやいた。


「女の闘い、なのかも......」

この女性同士の「闘い」が、やがてわが身にふりかかろうとは、この時は予想だにしていなかったことだろう。

女性活躍推進法で加速した女性登用

それからも社会が求める女性社員の働き方、生き方は、ますます横沢さんが歩んできた仕事を第一優先とする道とは異なる方向に向かっていく。育児と両立させながら仕事で能力を発揮し、さらに管理職という指導的地位に就いて活躍していくというライフスタイルである。

第二次安倍内閣が2013年に発表した成長戦略のひとつに「女性が輝く日本」が掲げられた頃から、大企業を中心に女性登用を意識した取り組みが本格化する。その後、女性管理職比率の数値目標などを盛り込んだ行動計画の策定、公表を雇用主に義務づけた女性活躍推進法*2 の施行によって、企業の女性登用推進が一気に加速する。

横沢さんが育児をしながら管理職を目指す後進の女性たちへの嫌悪感や批判を赤裸々に語るようになったのは、女性活躍推進法が全面施行された16年頃からだった。14年に51歳で社内初の女性部長に昇進して采配を振るう一方で、悩みはなおいっそう深まっていたのだ。

「『女性活躍』という国が掲げる崇高な理念はわかりますよ。でもね、職場を混乱させてまで、無理して、育児との両立だけで大変な女性社員を、管理職にまで引き上げて優遇するのはどうかと思うんです!」

それまでも多少の憤りを露わにすることはあったが、16年のこの時のインタビューでは声を震わせて怒りをぶちまけたのが鮮烈に脳裏に焼きついている。

*2 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律。10年間の時限立法。16年から女性管理職比率の数値目標などを盛り込んだ行動計画の策定・公表が、常時雇用する労働者301人以上の大企業に義務づけられた。19年の改正法施行により22年から義務づけの対象が、同101人以上300人以下の中小企業にも広がった。同100人以下の事業主は努力義務。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米経常赤字、第3四半期は13.1%増の3109億ド

ワールド

イタリア大手銀、コメルツ銀への出資引き上げ ドイツ

ワールド

NATO移管のウクライナ支援調整組織が始動=事務総

ワールド

米下院委、不品行ゲーツ議員の倫理報告書公表へ 数日
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:アサド政権崩壊
特集:アサド政権崩壊
2024年12月24日号(12/17発売)

アサドの独裁国家があっけなく瓦解。新体制のシリアを世界は楽観視できるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達した...ここまで来るのに40年以上の歳月を要した
  • 2
    遠距離から超速で標的に到達、ウクライナの新型「ヘルミサイル」ドローンの量産加速
  • 3
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが物議...事後の悲しい姿に、「一種の自傷行為」の声
  • 4
    「制御不能」な災、黒煙に覆われた空...ロシア石油施…
  • 5
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 6
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 7
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 8
    アサドは国民から強奪したカネ2億5000万ドルをロシア…
  • 9
    年収200万円は「低収入ではない」のか?
  • 10
    電池交換も充電も不要に? ダイヤモンドが拓く「数千…
  • 1
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式多連装ロケットシステム「BM-21グラート」をHIMARSで撃破の瞬間
  • 2
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いするかで「健康改善できる可能性」の研究
  • 3
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達した江戸の吉原・京の島原と並ぶ歓楽街はどこにあった?
  • 4
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    電池交換も充電も不要に? ダイヤモンドが拓く「数千…
  • 7
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 8
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 9
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 10
    【クイズ】アメリカにとって最大の貿易相手はどこの…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 7
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 8
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 9
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中