最新記事
鉄道

電車の遅延が減る? AIカメラで豪雨対策...JR武蔵野線の新システム

2024年12月4日(水)10時00分
高野智宏
AIカメラやマルチ監視ユニットを活用した排水ポンプ監視盤の遠隔監視システム Newsweek Japan

AIカメラやマルチ監視ユニットを活用した排水ポンプ監視盤の遠隔監視システム Newsweek Japan

<電車の遅延や運休を引き起こす大雨被害に、AIが新たな対策をもたらしている。JR武蔵野線が導入した遠隔監視システムは、AIカメラによるリアルタイム監視で、豪雨時の迅速な対応を可能にした>

地球規模で温暖化が進行する現在、日本も2023年の年平均気温は観測史上最高を記録し、猛暑日(最高気温35℃以上)の年間日数も増加傾向にある。温暖化は降雨パターンにも影響を及ぼし、1時間の降水量が50ミリを超える猛烈な雨の発生回数は、約30年前と比較して約1.4倍に増加している。記憶に新しい例としては、能登半島地震の被災地を襲った今年9月の奥能登豪雨災害が挙げられる。こうした大規模水災害が甚大な被害をもたらす現状は、読者にも鮮明に記憶されているだろう。

水害による影響を受けやすいインフラの一つが、通勤や物流を支える鉄道だ。近年、大雨による線路や駅舎への浸水、土石流の流入といった事例は枚挙にいとまがない。この問題に対応するため、JR東日本はパナソニック エレクトリックワークス社(以下、パナソニックEW社)と協力し、AIカメラやマルチ監視ユニットを活用した排水ポンプ監視盤の遠隔監視システムを導入。まずはJR武蔵野線の新小平駅にある排水ポンプ施設にて運用を開始した。このシステムは、異常を早期に検知し迅速な対応を可能にすることを目的としている。

2台のAIカメラ活用の監視システム

JR東日本八王子支社管内では、地面に浸透した雨水や湧水を一時的に貯める貯水槽と、許容量を超えた水を排出する路盤排水ポンプが11カ所に設置されている。その中でも多くの設備が集中するのが武蔵野線だ。同線は2020年6月の大雨により線路が冠水し、複数台の排水ポンプをフル稼働させても排水が追いつかず、46本の運休と最大316分の遅延を引き起こした経験を持つ。

JR東日本とパナソニックEW社は2017年、上野駅構内に設置したデジタルサイネージ付き分電盤を設置した共同開発をきっかけにパートナーシップを構築してきた。今回の遠隔監視システムの開発は、2021年にJR東日本が相談を持ちかけたことからスタート。共同で開発を推進し、新小平駅を含む武蔵野線内の3カ所で既に運用が始まっている。

導入されたシステムは、ポンプの稼働状況を表示する分電盤と排水槽の状況をAIカメラでリアルタイム監視する仕組み。またマルチ監視ユニットと呼ばれる装置もあり、分電盤内部に多回路エネルギーモニタが装着され、ポンプの電力量も常時計測する。これにより、満水や故障などの異常が発生した場合には、ランプで示される異常をAIカメラが解析し、担当者にメールで通知。添付された画像とエネルギーモニタのデータを基に、遠隔地からでも異常の内容を推測できる。

newsweekjp20241127042151-dc8abe151f9c527ef60736f92b7900440a0b8802.jpg

分電盤の状況を監視するAIカメラ

newsweekjp20241127042209-3bb4a94c2397c25f24471a7684da84734da31647.jpg

こちらは排水槽の状況を監視

JR東日本 八王子支社 八王子電力設備技術センターの福原安志氏は次のように説明する。

「これまでは現場から異常が通報されても、満水なのか故障なのか内容が特定できず、技術部門のスタッフが現地で確認する必要がありました。しかし、今回のシステム導入により、遠隔地からでも異常の原因をある程度把握でき、仮設ポンプや修理の準備を整えて現場に向かうことが可能になりました」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア政府系ファンド責任者、今週訪米へ 米特使と会

ビジネス

欧州株ETFへの資金流入、過去最高 不透明感強まる

ワールド

カナダ製造業PMI、3月は1年3カ月ぶり低水準 貿

ワールド

米、LNG輸出巡る規則撤廃 前政権の「認可後7年以
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中