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メールで相手を説得するには「三手詰め」で書けばいい【新聞記者のベストセラー文章術】

2024年9月24日(火)17時55分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

落とすラブレターの名手は編集者

さて、上手なメール(=手紙)を書く人とは、だれでしょうか。まず、編集者をおいてほかにありません。

編集者とは、作家、ライター、記者と一緒に、書籍や雑誌、新聞を作る人です。作家やライターをピッチャーだとすると、編集者はキャッチャーです。そして、ピッチャーを生かすも殺すも、キャッチャー次第です。

そのなかでも、本を作っている編集者はとびきり優秀なキャッチャーが多いです。なにしろ本を作ろうというのですから、相手は一流の作家やライターです。文章の練達の士です。その人に向かって、メールや手紙を書くわけです。文章によって、文章の達人を口説くんです。編集者の手紙が、下手なわけはありません。

この本の編集Lilyとわたしは、初めて仕事をする仲です。最初にもらった仕事の依頼は、手書きの立派な書簡で、隅から隅まですきがなく、いかにも「できるな」と思わせるものでした。わたしが言うところの「三手詰め」になっていました。

相手を落とす依頼状は「三手詰め」で書く

手紙でもメールでも、こちらが三手動かすことで、相手玉を詰まさなければならない。相手を口説き落とさなければならない。将棋では相手も駒を動かすので五手詰めといいますが、ここは便宜上、メールの三手詰めと名付けます。

◎一手目 自分はあなたを知っている

なにをあたりまえなというなかれ。これが書けている人は、ほとんどいません。仕事を依頼する相手の本や記事、発言、相手が会社員ならば先方の仕事内容を知悉(ちしつ)していて、しかも、ある程度の期間を継続して興味を持っていることを、具体的に知らせなければならない。

依頼対象が忘れているような過去の仕事も含め、「あなたを知っている」と伝える。仕事を具体的にあげ、感銘を受けていることを、短くて的確な言葉で表す。

お世辞を言えというのではないのです。逆。みなが書きそうなことは書かない。依頼相手が、かつて言われたこともないような、新しい視点からの「評」を添える。つまりは常套句を廃せ(第4発)[※編集部注:『三行で撃つ 〈善く、生きる〉ための文章塾』(CCCメディアハウス)では、それぞれの文章技術を散弾になぞらえて、25のプロの技を解説している]ということだし、五感を使え(第7発)ということです。

◎二手目 自分はこういう者である

自己紹介ですね。自分の会社名、部署や肩書はもちろん、いままでどういう立ち位置で仕事をしてきたか、いま現在はどういう問題意識をもっているのか、「自分語り」はなるべく簡潔かつスピーディーに、必要な情報だけを、しかし相手を納得させるに十分なインフォメーションを与えます。

◎三手目 したがって自分にはあなたが必要だ(あなたにも、自分は有用だ)

一手目、二手目の、論理の帰結として、いま、わたしはあなたを必要としている。こういう問題意識をもった自分にとって、あなたに話を聞きたいと思うのは必然だし、あなた以外に話をする適任者がいるとは思えない。そこまで思わせなければ、だめです。

依頼し、依頼される:仕事はすべて人と人で成り立っている

メールもそうですが、初発の熱量がすべてなんです。どうしても創りたいという思い、この場合はどうしてもあなたと仕事をしたい、話を聞きたいのだと、そういう熱を感じさせられるかがすべてです。

そしてその熱を、単に「あなたと仕事がしたい」と書いてはだめです。論ではなく、エピソードで語らせる(第7発)。三手目に至る過程で、自分にはあなたが必要であること、そしてあなたにとってもこの仕事を受けることで新たな可能性が広がることを、説得的に、事実で、場面で語る。

あなたを知っている→自分はこういうものだ→だからふたりは会うべきだ。表現とは、言語とは、本質的に〈他者〉を必要とする、なんらかの行い(ゲーム)なんです。

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