最新記事
BOOKS

メールで相手を説得するには「三手詰め」で書けばいい【新聞記者のベストセラー文章術】

2024年9月24日(火)17時55分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

依頼時の大前提:わたしのエゴより相手への配慮

三手詰めの前の、大前提がある。仕事を頼む相手は、つねに、世界一忙しい人だと思え。世界一忙しい人に出す依頼状であるからして、手紙でもメールでも、冒頭に時候のあいさつはいらない。意外に知らないライターが多い。

逆に、最初の依頼メールから省いてはならない情報もある。①自分はだれにメールアドレスを聞いて連絡しているのか②取材、面談を希望するおおまかな日程③謝礼、ギャラが発生するのか、発生するならいくらか。

日程とギャラについては、「あるいは失礼とは思いますが」と前置きして、しかし最初から書いておく。取材相手に問わせることは、失礼だ。最初からカネの話をするのは、無粋でもなんでもなく、必須事項、むしろ礼儀だ。

わたしは三十年以上、ライター、編集者として仕事をしてきて、三手詰めのメールで会ってくれなかった人は、ほとんどない。中央政界の疑獄事件で逃げ回っている代議士や、贈賄側の理事にも、手紙を書いて会ったことがある。

しかし、三手詰めのメールを書いても、それでも受けてくれない人は、いる。その場合は深追いしない。事件取材なら話は別だが、平時の仕事依頼である場合、三手詰めメールで肯(がえ)んじてくれないには、それなりの理由があるものだ。

行きずりの関係はわびしい

最後に、人間を、甘く見るな、ということだ。一回限りの関係を求めて近寄ってくる人は、すぐに分かる。だから相手も、ギャラや時間を勘案し、会う、会わないを決める。

言うは易やすく、行うは難しの典型だが、一回限りの関係を求めて近づく人間になってはいけない。一生付き合うという覚悟をもって、仕事は申し込むべきなのだ。

わたしも、仕事が終わったあと、手紙やメールを書き続ける取材相手が、何人もいる。高齢で身寄りがなく、生活の面倒を見ている人さえいる。

勘違いしないでほしい。打算でしているのではない。尊敬からしている。しかし、心からの尊敬も、かたちにしなければ、言葉にしなければ、伝わらない。

言葉にならない感情、言葉に落とせない思想は、存在しない。言葉にならないのではない。はなから感じていないし、考えてさえいないのだ。

この本の主張の、根幹であり、要諦(ようてい)であり、最初で最後だ。

◇ ◇ ◇

三行で撃つPOP

三行で撃つPOP


近藤康太郎(こんどう・こうたろう)

作家/評論家/百姓/猟師。1963年、東京・渋谷生まれ。1987年、朝日新聞社入社。川崎支局、学芸部、AERA編集部、ニューヨーク支局を経て、九州へ。新聞紙面では、コラム「多事奏論」、地方での米作りや狩猟体験を通じて資本主義や現代社会までを考察する連載「アロハで猟師してみました」を担当する。

著書に『ワーク・イズ・ライフ 宇宙一チャラい仕事論』『三行で撃つ〈善く、生きる〉ための文章塾』『百冊で耕す〈自由に、なる〉ための読書術』(CCCメディアハウス)、『アロハで田植え、はじめました』、『アロハで猟師、はじめました』(河出書房新社)、『朝日新聞記者が書けなかったアメリカの大汚点』、『朝日新聞記者が書いたアメリカ人「アホ・マヌケ」論』、『アメリカが知らないアメリカ 世界帝国を動かす深奥部の力』(講談社)、『リアルロック 日本語ROCK小事典』(三一書房)、『成長のない社会で、わたしたちはいかに生きていくべきなのか』(水野和夫氏との共著、徳間書店)他がある。


近藤康太郎『三行で撃つ』

『三行で撃つ 〈善く、生きる〉ための文章塾』
 近藤康太郎[著]
 CCCメディアハウス[刊]

20250121issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月21日号(1月15日発売)は「トランプ新政権ガイド」特集。1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響を読む


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中