日本経済の「脱デフレ」は不動産株にとって、プラスかマイナスか?
6月28日、日本経済の「脱デフレ」は不動産株にとってプラスかマイナスか──。株式市場ではまだ明確な答えは出ていないようだ。都内で2023年11月撮影(2024年 ロイター/Issei Kato)
日本経済の「脱デフレ」は不動産株にとってプラスかマイナスか──。株式市場ではまだ明確な答えは出ていないようだ。国内金利の急ピッチな上昇は業績に響くものの、インフレによる資産価格高はメリットが大きい。株価の出遅れ感から今後見直される場面があるとしても、金利上昇の環境を考慮すれば、企業間の選別色は強まるとの指摘も出ている。
不動産株の上値が重い。5月中旬以降にみられた国内金利の急ピッチな上昇や、金利の先高観が上値を抑え、東証の不動産業指数は4月に高値を付けて以降、軟調な動きが続く。 アクティビスト(物言う投資家)による自社株買い要求を材料に三井不動産株が急騰した4月半ば以降、不動産株は材料出尽くし感や国内金利の上昇で利益確定売りが強まってきた。
一般的に長期金利の上昇は、住宅ローンの長期固定金利の上昇圧力となり、住宅購入者の重しになりネガティブ視されやすい。多額の負債があるデベロッパーにとっては、利払い負担への警戒感も意識される。
不動産業の指数が高値を付けた4月12日以降の主要株(27日終値時点)は、三井不動産が13.2%安、住友不動産が21%安、野村不動産ホールディングスが8.6%安と軒並み安い。同期間のTOPIXは1.23%の上昇で、不動産株の低調ぶりが目立つ。
日銀は7月会合で今後1―2年の国債買い入れの減額計画を決める。金融市場では、あわせて追加利上げへの警戒感もくすぶる。先行きの引き締めにも前向きな姿勢を示す可能性があり、「長期的にあく抜け感は出にくいかもしれない」と、SMBC日興証券のシニアアナリスト、田澤淳一氏はみている。
NAVが上昇基調、株安の裏で
一方、インフレ期待局面で注目されるのがネットアセットバリュー(NAV、純資産価値)だ。企業が所有する不動産の価値から借入金などの負債額を引いたもので、所有不動産の時価が上がり、含み益が増えれば「PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)といった伝統的な指標だけで株価を割高、割安と判断するのは難しい」と、SMBC日興の田澤氏は話す。
とりわけ、市場関係者が注視するのが、株価を1株あたりのNAVで割って算出する「NAV倍率」だ。1株あたりのNAVは、企業が所有する不動産を全て売却し、負債を返済した後にいくら残るのかといった、いわゆる「解散価値」を示す。NAV倍率は株価の割安度を示し、1倍を下回ると割安感が意識されやすい。 野村証券のアナリスト、福島大輔氏は「低金利下における不動産市況の上昇や、大手各社の開発事業による不動産の価値向上で、各社のNAVは成長を続けている」と分析する。福島氏の試算では、三井不動産のNAV倍率(27日終値時点)は0.74倍で「現時点では割高感はないと判断できる」とみる。 株安の一方、NAVが上昇することでNAV倍率は低下する流れにあり、資産価値の上昇基調が明確になってくれば、金利高というネガティブな側面だけでなく「インフレのプラス面が意識され、株価の支援材料となりそうだ」(いちよし証券の投資情報部・及川敬司氏)という。