大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなアメリカンドリームの現実「学歴社会」に待ったの兆し
オハイオ州で電気技師として働くスカイラー・アドレタは、かつて塗装工場でマネジャーのポジションに空きが出たとき、この「天井」にぶち当たった。
彼は自分が上司に好感を持たれていること、そして職人としての才能を認められていることを知っていた。作業の効率化について彼が出したアイデアは、実際にいくつも採用されていた。
そこでスカイラーは人事担当役員のところに行き、こう言った。
「マネジャーの仕事に興味があります。管理職の経験はありませんが、同僚とはいい関係を築いています。みんな私を認めているし、あなた方も認めているはずで、現に私の出したアイデアがいくつも採用されています。だから、少しでも可能性があるなら検討していただけませんか」
だが、検討の余地はなかった。役員は彼に「マネジャー職には大学の学位が必要というのが会社のルールだ」と告げた。
「でも、私なら務まると思いませんか」と、スカイラーは食い下がった。「能力の問題じゃない」と役員は言い、こう続けた。
「君ならいいマネジャーになれると思う。でも、ここには200人の従業員がいる。勤続年の者を差し置いて君を選んだらどうなる? ほかの従業員がやる気をなくしてしまうよ」
「いや、私でも昇進できると知れば、みんな今まで以上に本気を出して頑張るんじゃないですか」。スカイラーはさらに食い下がった。
「そういうわけにはいかないんだ」。 役員は素っ気なく言った。
「それなら、もうこの仕事は続けられません」とスカイラーが告げると、役員は「そういう結論になってしまうのは残念だ」と答えたが、昇進に関するルールは変わらなかった。
数週間後、スカイラーは会社を辞めた。そして、もっと実力がものをいう職場に移った。
特定の技能を身に付ければ食べていける社会であってほしい。そういう声を、私は何度も聞いた。
実際、かつてのアメリカでは職業訓練が学校教育の柱の1つだった。ペンシルベニア州ピッツバーグでエレベーターの整備士をしているエリックは言う。「昔は卒業が迫ると、木工クラスの先生が生徒全員を大工組合の試験に連れて行ったものだ」
でも今は違う。「もう誰も、大工になれなんて言わない。大工はいい仕事なのに。金持ちにはなれなくても、ちゃんと暮らしていける。年に8万ドルは稼げて、家族も養える」
何が変わってしまったのか。1つには、学歴と知識産業を重視する世の中の風潮がある。ただし、この流れは、グローバリゼーションがアメリカの労働者階級に与えた壊滅的な影響をごまかすための巧妙な手口にすぎなかった。
アメリカの労働者階級はこんなメッセージを受け取った。おまえたちは舟に乗り遅れた、大学教育を受けた人との差が開いたのは諸君が愚かで教育がないからだ、大学教育を受けた人に幸運が巡ってくるのは当然だ、それだけの金を払い、努力もしてきたのだから―と。
風向きは変わってきたがそういう考えは、労働者階級にも浸透している。
「今の若い人たちは、労働者階級に入ってしまったら終わりで、もう列車に乗り遅れたことになると教えられてきた」と、前出のスカイラーは言う。
「要するに、大学に通い、ちゃんと卒業しないと、アメリカ社会に存在する最下層のカースト、すなわち労働者階級に、まともな人間扱いされない資格欠落階級に落ちてしまう。万事休すだ」
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