最新記事
アルゼンチン

公的支出カット、中央銀行廃止、米ドル法定通貨化?...アルゼンチン新大統領の公約、超インフレ経済はどうなる

Teetering on the Edge

2024年3月12日(火)16時40分
ラウタロ・グリンスパン
アルゼンチン国民

ゼネストの呼びかけに応え、教職員組合も「反ミレイ」の闘いに参加した LATIN AMERICA NEWS AGENCYーREUTERS

<極右のミレイ大統領就任から2カ月でインフレ率は250%を突破した一方、外貨準備は増加。国民の困窮はさらに悪化しているが...>

先日の夕方、アルゼンチンの首都ブエノスアイレス郊外の公園で、28歳のミカエラ・マルダノは毛布を敷いて古着やマテ茶を入れる壺などを並べ始めた。食べ物と物々交換するためだ。食料品はどんどん手に入りにくくなっていると、彼女は話す。「肉なんてずっと口にしていない」

彼女だけではない。2023年は200%超のハイパーインフレで幕を閉じたこの国では今、物々交換などの手段で食料を確保しようとする人たちが大勢いる。長らく経済危機にあえいできたアルゼンチンだが、昨年12月に極右のハビエル・ミレイが大統領に就任してから貧しい人たちの生活は一層厳しくなった。

ミレイは大統領就任早々、通貨ペソを50%以上切り下げた。そのため既に制御不能だったインフレがさらに悪化。政府の公式データでは、ガソリンの価格は約2倍、食料品の価格も約50%跳ね上がった。

ミレイ就任から2カ月ほどで、インフレ率は前年同月比250%を突破し、ベネズエラを抜いて中南米トップを走っている。

選挙戦中にチェーンソーを振り回して公的支出をぶった切るとわめいていたミレイは、約束どおり公共サービスの補助金を大幅カットしている。

「政界のアウトサイダー」として国民の期待を集めたこともあり、選挙戦中にはさらに過激な政策を掲げていた。中央銀行の廃止や米ドルを法定通貨にすることなどだ。しかし就任後にはさすがにこれらをゴリ押しせず、比較的穏当な政策を打ち出した。長年にわたり累積した財政赤字を予算削減と増税で減らすというものだ。ミレイはこれを「ショック療法」と呼んでいる。

ドルの外貨準備は増加

だが今のアルゼンチンの平均的な家計の「体力」では、このショックに耐えられそうにない。昨年の終わり頃には国民の購買力が毎月14%ずつ低下していく状況になった。

アルゼンチン・カトリック大学の調査チームによると、この国の貧困率は2022年末には43.1%で、ミレイが就任した昨年12月時点では49.5%だったが、今年1月には57%を超えたとみられる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中