最新記事
日本企業

サブカルの発信地「ヴィレヴァン」、気付いたらマズいことに ドンキに差を付けられた根本理由とは?

2024年2月20日(火)14時01分
谷頭和希(チェーンストア研究家・ライター) *東洋経済オンラインからの転載

「本」という商材にこだわらずに、柔軟に業態を変更させていった結果である。「本」だけに注目すると、このようなブックオフの姿は見えてこない。

また、ブックオフの柔軟性というか、圧のなさはその店舗空間にも現れていて、ブックオフはオススメ本のレコメンドをほとんどしていない。そこには、ほとんど圧がないのだ。私の2冊目の著書『ブックオフから考える』では、そうした「圧のない」ブックオフの空間をレポートした。

ヴィレヴァンは「押し付けがましさ」を乗り越えられるか

一方で、ヴィレヴァンも業態の拡大に乗り出したことはあった。2007年に雑貨店「チチカカ」を買収したのだ。チチカカは中南米の雑貨などを扱う店だったが、それらはやはりどこか中央線沿線的な匂いを色濃くもった店で、それまでのヴィレヴァンの世界観の延長にあるような店だったと思う。結局この買収は、大きな損失をもたらしただけだった。

『ドンキにはなぜペンギンがいるのか 』(集英社新書)もちろん、ヴィレヴァンという店自体が、創業者の菊地が、自分自身の好きなものをなんでも店頭に並べ、それをオススメする形で始まったということを考えれば、そこに、ある種の押し付けがましさが生まれてしまうことは必然的なことだといえる。

むしろ、「押し付けがましさ」こそが、同社が人を惹きつけてきた理由だった。

とはいえ、ここまでの大きな企業になった以上は、なんとか時代に受け入れられるような店舗空間の改革が必要にはなってくる。しかし、そうして「押し付けがましさ」をなくしていくと、今度はヴィレヴァンらしさが失われてくる。ここに、本当の意味での「ジレンマ」がある。

ヴィレヴァンの前途は、なかなか多難かもしれない。

谷頭和希(たにがしら・かずき)

チェーンストア研究家・ライター。1997年生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業、早稲田大学教育学術院国語教育専攻修士課程修了。「ゲンロン 佐々木敦 批評再生塾 第三期」に参加し宇川直宏賞を受賞。著作に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』 (集英社新書)、『ブックオフから考える 「なんとなく」から生まれた文化のインフラ』(青弓社)がある。テレビ・動画出演は『ABEMA Prime』『めざまし8』など。


※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら
toyokeizai_logo200.jpg




20250204issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月4日号(1月28日発売)は「トランプ革命」特集。大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で、世界はこう変わる


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米シカゴ連銀総裁、インフレ進展に安心感 政策不確実

ビジネス

ECB、景気支援に利下げ継続 夏までに物価目標達成

ワールド

米シェブロン、「アメリカ湾」の名称使用 四半期決算

ワールド

米FAA、首都空港付近のヘリ飛行を制限 墜落事故受
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌の育て方【最新研究】
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 6
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 7
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 8
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 9
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 10
    「全員くたばれ」キスを阻んで話題...メラニア夫人の…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中