なぜ「経営理念」だけでは稼げないのか?...仕事は「中間システム」の具体化がカギだった
経営理念は「抽象的」で役に立たないのか?
あなたが出版社の編集者であると仮定しよう。上司からは新刊の企画を立てるように言われている。しかしその指示は、「面白くて売れる企画を立ててよ」ということで、いまいち不明瞭だ。ここでは、どのような企画を考えるべきなのだろうか?
もし小説を出版するならば、一般的に、芸術性の高い純文学よりも、エンターテインメント性の高い大衆小説のほうがたくさん売れるとされている。「面白くて売れる」ことを考えるなら、純文学より大衆小説を選ぶべきだろう。
しかし、ここで立ち戻るべきは経営理念である。もし経営理念に「当社の設立目的は、大衆に娯楽を与え熱狂させることである」とあるならば、もちろん大衆が熱狂するようなエンターテインメント小説を企画すべきだ。
もし、そうではなくて「当社の設立目的は、芸術性ある文学を世に広めることである」とあったらどうだろうか?
この場合、上司の指示と経営理念を照らし合わせると、たとえば「芸術性ある文学をなんとか面白くして大衆に受けるようにする」というものが企画の軸になる。
もしこの軸に不自然さを感じるなら、もしかして編集方針(中間システム)と経営理念が噛み合っていないのかもしれない。編集方針がおかしいなら、編集方針を修正する必要がある。あるいは、経営理念が時代に合っていないと言うならば、経営理念のほうを修正する必要があるかもしれない。
いずれにしろ、編集方針という中間システムと経営理念を照らし合わせることで、中間システムは明確になり、洗練されていくのである。
「経営理念というものは抽象的すぎて役に立たない」と思っている人は多い。確かに経営理念単体では抽象的すぎて役に立たないのだが、具体的な中間システムとの関係に目を向けることで、その実用性が分かってくるだろう。
谷川祐基(たにかわ・ゆうき)
日本教育政策研究所代表取締役。1980年生まれ。愛知県立旭丘高校卒。東京大学農学部緑地環境学専修卒。小学校から独自の学習メソッドを構築し、塾には一切通わずに高校3年生の秋から受験勉強を始め、東京大学理科Ⅰ類に現役合格。大学卒業後、「自由な人生と十分な成果」の両立を手助けするための企業コンサルティング、学習塾のカリキュラム開発を行う。著書に『見えないときに、見る力。:視点が変わる打開の思考法』『賢さをつくる:頭はよくなる。よくなりたければ。』『賢者の勉強技術:短時間で成果を上げる「楽しく学ぶ子」の育て方 』(共にCCCメディアハウス)がある。
『仕事ができる 具体と抽象が、ビジネス10割解決する。』
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