融資審査に「心理統計テスト」活用、AIアルゴリズムでマイクロファイナンスの新たな地平へ
ビー・インフォマティカはアジア全域、さらにはアフリカで小規模事業者向けの融資を行うことを目指している(写真はイメージです) ArtemisDiana-Shutterstock
<ビー・インフォマティカ株式会社は東南アジアを中心に新たな人工知能(AI)を活用した手法でマイクロファイナンス(小口融資)事業を展開。その取り組みにより東京都の主催する「東京金融賞2022」(金融イノベーション部門)を受賞した>
同社を設立したのは、ノーベル賞も受賞したバングラデシュのマイクロファイナンス機関であるグラミン銀行に啓発されたためだった。
1970年代半ば、バングラデシュの大学で経済学を教えていたムハマド・ユヌス氏は、高利貸しによって貧困にあえぐ職人たちがキャンパスの近くに何十人もいることを知った。現実に苦しむ人々がすぐそばにいるというのに、教室で経済理論を講義していることにむなしさを覚えた彼は、行動しなくてはならないと決意した。
彼は42人の職人・個人事業主にあわせて27ドルという非常に少額の融資を実施。これがマイクロファイナンスの誕生につながり、ユヌス氏は世界に大きな影響を与えることとなった。
ビー・インフォマティカは、このアイデアをさらに推し進めようとしている。AIのアルゴリズムを活用し、十分なサービスを受けていない小規模事業者向けの融資を促進している。
同社の共同創業者である稲田史子氏は東京の大学で学んでいたころ、途上国でソーシャルビジネスに従事するという夢を抱いた。しかし、日本銀行や楽天証券など日本の金融業界で働くうちに、彼女は「この夢のことをほとんど忘れていた」と言うが、2006年にユヌス氏とグラミン銀行が「底辺からの経済的・社会的発展の創造」を目指す活動が評価されてノーベル平和賞を受賞したことで、再びこの夢に目覚めた。
そして、稲田氏は東南アジアでマイクロファイナンスに携わる東京拠点のNGOで働きはじめた。「それから仕事を辞め、人生とキャリアを大きく変える決断をしました」。彼女はロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で地域経済開発学の修士号を取得。その後、バングラデシュの大手マイクロファイナンス機関でNGOのBRACで働きはじめた。
融資の決定に心理統計テストを活用
2016年にはバングラデシュの首都ダッカでテロ事件が発生するなど、さまざまな困難を経験しながらも、テックやソーシャルビジネス、スタートアップの世界の人々と共に働きはじめた。この時期、稲田氏は後にビー・インフォマティカを共に設立することになる技術者、M・マンジュール・マフムッド氏と出会う。「アジア全域でデジタル・マイクロファイナンスを広めたい」という点で考えが一致した。
2019年、2人はマレーシアのクアラルンプールで会社を立ち上げた。「マレーシアを拠点に選んだ理由は、インターネットの普及率が約99%、スマートフォンの普及率が約90%と、デジタルビジネスを展開するのに非常に適した環境があることです。人口は約3,300万で、若い世代も多い。国がそれほど大きすぎず、小さくもないという点も丁度良かったのです」